第9話

「ごめんなさい。今、なんて言ったの?」

「俺はヴァンパイアだ。そう言ったんだ」


 暫く沈黙があった後有紀は頭を抱えて言う

「ちょっと待って‥‥‥思考が追い付て来ないわ。今マルクが言った言葉、ヴァンパイアって、あの? 吸血鬼の?」

「他にいる? 吸血鬼じゃないヴァンパイアなんて」

 俺はふっと笑って有紀を見る。


「‥‥‥じゃあ、牙があるって事?」

「初めに聞いてくる所ってそこ?」

 流石にそこに質問が来るとか、ドクターなんだなあって思うよ。


「見たい?」

 逆に聞いてみたが。どうなんだろうか。

「見たい!」

 子供のようにキラキラした瞳で言ってくる。俺は口を開けて見せる。


「ほら、ここね。吸血する時に少し伸びるんだ」

「へえ~面白いわ。でもさあマルク普通に食事食べていたわよね。それってどういう事? 普通の食事も食べれるの?」


「血液だけが必要って訳じゃないんだ。何でも食べれるよ。ただ定期的に血液を摂らないと行けない、俺達の身体に必要なんだ。人間でいう特別な栄養素ってやつかな、それが枯渇すると酷い吸血衝動に襲われて見境なく襲ってしまう。だから定期的に血液は摂っているよ」


「どうやって摂っているの?」

「期限切れの輸血パックなんか届けてもらっている」


「だからあの時、俺噛んでないかって私に聞いたのね」


「そういや聞いたっけ」

「へんな事聞くなあって思ったけど、成る程」

 フムフムと一人で納得して頷いている。


「有紀は俺の事怖くないのか?」

「どうして怖がる必要があるの?」

「だって俺は人間じゃない。君を襲って血液をすすってしまうかも知れないんだよ。あの時だって危うく噛みそうになった」


「‥‥‥血液が飲めれば部位は何処でもいいのよね」

「まあね。と言っても男性の首筋に牙は立てたくないからなあ、って普通に会話しているけど、有紀大丈夫? 可笑しくないか? こんな事を聞いたら普通怖がるだろう?」


「だから、どうして怖がる必要があるの? マルクはマルクでしょう? 私を襲って殺したりしないでしょう?」

「当たり前だ! 好きな相手を殺すなんてあり得ない!」

「なら、問題ないわ。私、マルクの事好きなんだもの」

「‥‥‥本当に?」

 俺は有紀に顔を見る。

「こんな事嘘をつく理由が何処にあるの? こっちが聞きたいわ。それに貴方が私に言ったのよ。君が好きだって」


 そう言って俺をいつもの様に弾ける様な笑顔で見る。そうだ、俺は伝えたかったんだ、この気持ちをそして、こんな俺でも受け入れて欲しいと願っていたんだ。

君は俺を受け入れてくれた。ああ、何て幸せな気分なんだ。これでリックに良い報告が出来る! 

「ねえ、冷蔵庫に輸血パックないわよ」

いつの間にそこにいるんだ。


「そうだった‥‥‥今切れていたんだ」


「こういう時ってどうしているの?」

 おっと、有紀の顔が近い‥‥‥。

「ああ、友人から貰ってくるんだ」

「へえ~そうなんだ~」

 有紀の顔が‥‥‥何か良からぬ事を考えている顔だ。

「ねえ! 私を噛んでいいわよ。噛まれたからってヴァンパイアになる訳じゃないんでしょう?」

「そうだけど‥‥‥」

「はい!」

 と髪をかき分けて首筋を俺に向ける。

「噛まれると気持ちいいらしいが‥‥‥」

「そうなの?」

「今、俺は血液を欲している。今見たように輸血パックが切れて飲んでない」

「だから、どうぞ!」

「有紀‥‥‥噛まれる時の恍惚とした感じは、麻薬の様に危ないものなんだ」

 俺は顔を背けて言う。

「貴方にならいいわ。私のヴァンパイア」

 俺は有紀を抱きしめる。そして、その首筋にキバを立てた。

「あっ! はあ~っ」


 と甘い吐息が有紀の口から漏れる。俺は有紀の血を飲みながら有紀の服を脱がす。血液で汚さないように、口の端から血液が流れる。下着にその血液が染みついた。俺はその下着も外した。こんなに興奮する吸血は初めてだ。牙を抜き刺さった後を舌で舐める。そうやって止血する。有紀の顔を見ると違う意味で興奮して来た。

「マルク‥‥‥いいわよ。私を奪って」


 俺は有紀を抱えてベッドに寝かせる。有紀の表情は恍惚とした表情のままだ。その姿に俺は‥‥‥我慢なんか出来るか! 好きな相手が望んでいる奪ってと。


「有紀。俺は謝らないぞ、このままお前を奪う」

 高揚した顔のまま有紀は、

「馬鹿ね、謝らないで。私が望んだ事なのだから」

 その夜俺達は身体を重ねた。愛し合う‥‥‥こんな気持ちなのか‥‥‥リック解ったよ。お前の気持ち。

『人間と愛し合うっていいぞ!』

リックの笑顔が浮かぶ。


 朝、起きると隣に有紀が居る。当たり前なのだが、何だか幸せな気分だ。

有紀も起きてお互いの顔を見る。あの弾ける様な笑顔で俺を見つめる。

「マルク、牙の痕って残るの?」

 あっそこですか‥‥‥

「今日一日は残るかな」

「そうなんだ。絆創膏貼って、自分じゃ解らないもの」

「はいはい、貼らせて頂きますよ。有紀の血ってもしかしたらRHマイナスか?」

「そうよ」


 絆創膏を張りながら

「だからか、スゴイ美味かった。滅多にお目にかかれない貴重な血液の持ち主だったとは驚きだ」


「私もビックリしたわ。血を吸われるってホントに気持ち良いのね。イメージだと噛まれるから痛いのかと思っていたから」

「だから言っただろう。麻薬の様に危険なんだ」


「‥‥‥ねえ、マルク。日本に来て私以外の人を噛んだ事はあるの?」

「‥‥‥まあね。あるよ」

「噛んだだけ?」

「⁉ 当たり前だろう? 何言ってるんだ?」

「だって、マルク興奮してたでしょう?」

「⁉ 有紀だから興奮したんだよ。何言わせるんだ!」

 ふふっと笑う有紀、俺はからかわれたのか‥‥‥

「さあ今日も仕事だ。忙しくなるなあ」

 俺達は朝食を一緒に食べて一緒に出勤する。有紀は今日は自分のクリニックで仕事だ。俺はいつもの様に診察をする。少し間が開いて患者が途切れた時ナースに言われた。

「先生!」

と背中を叩かれる。?

「今日もイケメンですよ! 思い人と上手く行ったんですね! おめでとうございます!」

「相変わらず、鋭いよね。君達って」

「だって独身女性の憧れの的ですからね。知りたくもなりますよ」

「個人情報だから教えないぞ」

「解りました。でもマルクス先生って隠し事出来ないタイプなので、そのうちボロが出ますから、見てます!」

「敵わないなあ、ここのナースには」

優秀すぎるよなあ、全く。


有紀のクリニックでは

ナース組のマナ、ミカが有紀に食い下がる。

「院長! 絶対男見つけて今良い想いをしているでしょう」

「あら、何の事かしら?」

「だって肌の艶も違うし、その絆創膏です! キスマーク隠す為ですよね」

「お相手は誰ですか? こんなじゃじゃ馬娘を自分の者にしようなんて人がいるなんて驚きです」

「全く貴方達は‥‥‥」

「そのうち、教えるから。もう少し待ってて」

と笑顔で答える。

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