第6話

 危なかった。あそこで有紀が俺を離していなかったら、俺は有紀から吸血していた。何をしているんだ俺は‥‥‥。だが勢いでとは言え自分の気持ちは伝えた。


 さあ、しっかりと血を飲まないとこのままでは、吸血衝動で見境なく人間を襲ってしまう。キッチンに目を向けると温め直して下さいとテーブルにメモが置かれていた。有紀‥‥‥俺がヴァンパイアだと知ったら俺を恐れるだろうか? いずれ話さないと行けない日が来る。リックお前は凄いよ。こんな気持ちで人間を愛し見送るなんて、今の俺には考えられない。これからの事を考えながら外へ出た。


 はあ‥‥‥血が欲しい。ネオンが眩しい場所に行くと簡単に飲めると教えてもらったので、フラフラと歩くと声を掛けられる。


「お兄さん、うちの店に来ない? 可愛い日本人沢山いるわよ」


 こう言うのには気を付けろと言われているので無視をする。するとまた声を掛けられる。


「お店を探しているのかな? この辺はぼったくりが多いから気をつけな」

 そう言った後、俺の耳元で言う。


「その分だとかなりの血が必要だな? よく吸血衝動を押さえている。流石だ。こっちに来い」

 と小さな声で俺に言うこの男も同類だな。正直助かる、今にも襲いそうだ。


 その男の後を付いて行くとマンションの一室に入って行く。入ると同時に血の匂いが漂っている。ここは? 


「ここは俺の餌場だ。好きに飲んでくれ、殺すなよ。折角集めた餌なんだ」


  そこには数人の女達がいてこちらを見る。と、俺にすり寄ってくる。


「ねえ、噛んでいいのよ。ほら」

 と髪をかき分けて首を見せる。俺はその女から吸血した。


「ああ、気持ち良い!」


 すると他の女性も寄って来る。同じ様に自ら首をさらして俺に見せつける。

俺は我を忘れてその血を吸った。何人かの血を吸った後俺は、


「はーあ‥‥‥」


 と大きく息を吐く。


 俺の目は今、赤く充血しているだろう。その姿にこの部屋に案内した男はひざまついて言う。


「始祖様、満足して頂けましたか? 私も貴方様の家系の眷属です。お会い出来て光栄です」


「正直助かった。この女達は?」


「ヴァンパイアに血を吸われる快感を覚えてしまった者達です。なので遠慮なさらずに、彼女達の希望を叶えてやって下さい」


「そうか。ここに同族がいるとは思わなかったよ」


「現代において移動手段は多くございます。何も不思議ではありません」


「そうだな」

 リックもこの国に居たし俺も居る。不思議ではないか。


「始祖様、お願いがあるのですが」


「いいぞ、聞こう」


「では、私にも貴方様の牙でこの身体を噛んで下さい」


「解った。手を出せ」


 男の手首を噛み血をすする。

「ああ! この感じ! 何十年ぶりだろう、幸せです」

 男は身体を振るわせて言う。


「困った時はいつでもいらして下さい。お待ちしてます」


 俺はその部屋を出て帰る。


 理性を失って吸血するなど久しぶりだ。だがこの感じはやっぱり興奮する。

これで枯渇した飢えによる吸血衝動は収まったが‥‥‥有紀‥‥‥どう答えてくれる。


 今日も仕事で診察や通訳で忙しくしていた。あれから有紀から連絡はない、病院の院内で逢う事も何故かない? 俺は嫌われてしまったのか? いきなりのキスが問題なのか? そこでナースに言われる。


「先生今日はやけに難しい顔をされてますが、どうしたんです?」


「俺ってそんなに分かりやすい顔をしているのかな?」


「あら! 自覚ないんですね。先生って困ったり考え事をする時って顎に手を当てて良く摩ってますよ」


 とにっこりと言われてしまった。流石に良く観察している。うちのナースは優秀だよ。

「ちょっとね。個人的な事だから仕事とは関係ない。ミスしない様に気をつけるよ」


「ふーん。そうですか」

 とナースは意味あり気に俺を見る


「ははは君達ナースは特に日本のナースは優秀だからね、人を観察して考察する事に対しては敵わないよ」


「それは褒めて頂いて嬉しいです!」


 そこで、ナースは俺に近づき

「恋愛での悩みですか? 」

 俺は椅子から落ちそうになった。


「ビンゴですね」

  嬉しそうに言うナース。ほんとに優秀だ。


「先生は人気ありますからね。そんなに悩む必要はないと思いますよ。相手の方もきっと先生の事を気にしているんじゃないですかね」


「流石既婚者は違うのかな? 余裕だね」


「私の夫もナースなので、仕事に関して理解してくれています。こういった医療関係の仕事をしていると、一般の方とのお付き合いは難しいんです。不規則だし夜勤なんかもあるじゃないですか、結婚ってなるとやっぱり考えちゃいます」


「そうか、お互いこの業界に足を突っ込んでしまった訳だからね。この仕事の遣り甲斐を知ってしまうと抜けられなくなるよね。逆にメンタル的に病んで退職して行く人も多いほど大変な仕事だよなあ」


 何気ない会話をしていると電話でヘルプ要請が入る。

「行ってくる、後は宜しく」


 俺は救急救命センタ―に呼ばれた。患者は外国人で日本語が話せないらしい。


 救急外来に着いた、そこにはウルフマンであろう男が叫んでいた。他のスタッフは暴れるその患者の対応に苦戦しているようだった。俺はその患者の元に行って

イタリア語で言う。


「日本人に迷惑をかけるな。ここは病院だ。安心しろ、俺の事も解るだろ」


 暴れていたその患者は大人しくなる。周りもほっとする。


「お前は始祖か。こんな所で隠れているとはな、まあ前達にとっては血液の確保はし易いからうって付けの仕事か」


「それよりどうしてそんなに大怪我をしている。お前達にも回復能力があるだろう? 病院に運ばれたらへたすると正体がバレるからまずいじゃないか」


「だから、治療は必要ないって言っているんだが、通じなくて困っていたんだ」


「あのなあ、日本に来るなら日本語位覚えてから来いよな」


「‥‥‥悔しいが言い返せない」


「まあいい。大人しく治療は受けていけ。ここのドクターは優秀だすぐ終わる

後は仲間に迎えを呼んで帰ればいい。そこは俺が上手い事言っておいてやる」


「解った」


 大人しくなった患者に処理が行われて行く。血だらけだった割に傷は大した事はなく傷口もテーピングのみで終わった。


「傷は縫っていないから抜糸の必要はない。これで怪しまれる事はないだろう」


 そこで俺の名前をやっと見てその男は言う。

「マルクス・ウェンベリン? 道理で‥‥‥名前は変えないんだな。よくバレずにこれたな」


「この国のお偉いさんに俺達の仲間と繋がっている者がいるからな、何とでもなる。後からお前に聞きたい事があるから連絡するが構わないか?」


「最近の怪事件の件だろう? この怪我もそれが原因さ。詳しく後から話すよ。世話になった」


 処置が終わり様子観察室に移される。そこで救命救急センターのドクターに


「どうやら俺の知り合いに逢いに来たらしいんだ。ちょとしたいざこざで喧嘩になったらしい、この後はその知り合いに連絡しておくから俺に任せてくれないか?」


「マルクス先生の関係者だったのですね。それは良かった暴れた時警察を呼ぼうかと一瞬思ったんですよ。でしたら後の事を宜しくお願いします」

と任された。後からゆっくり聞こう。










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