第四十五話 燃えている。

 大会に出ると決まってから当日までは忙殺という言葉が似つかわしい生活を送っていた。朝から午後までは学校の授業を受けて、そこから直接予備校に移動。夜まで受講した後に帰って淡藤あわふじとまた勉強。この詰めに詰められた予定の中でスタジオに集まっての合わせ練習と技術を落とさないための個人練習もやらなきゃいけない。一日中勉強するのは受験生としては当然だけど、他にもやらなきゃいけないことがあるって精神的な圧迫感が強い。

 淡藤とかなりの頻度で会うのにデートにも行けないし、部屋で二人っきりになってもキスもできない。キスができないのは一度そこまでしてしまったら二人とも止まれないだろうから。それがかなりストレスで、

「はぁ。」

ため息も出たりするわけで。

つむぎ君どうしたの、何かあった?」

可愛い、下から覗き込むようにこちらを伺う顔がもはや天使と言える。こういうのをみると癒される。

「大丈夫、ちょっと疲れてるだけ。」

「ほんとにそれだけ?」

やっぱり可愛い。けどイチャつけなくて辛いとか言ったら引くよな、その原因もこっち側の都合なわけだし。でもなんとなく遠慮してる感じは読み取られちゃってるみたいだし、冗談めかして言って笑って済ませてもらっても良いかもしれない。

「最近淡藤とイチャイチャできてないから欲求不満になってるのかもしれない。」

「ーーそっか、そうだよね。」

あれ、思っていた反応と違う。もっと明るいトーンで笑うんだと思った。淡藤が少し恥ずかしそうに見つめてくる。淡藤の手が太ももをゆっくり撫でて腰から胸を伝って首にかかる。

「今日だけ、ダメ?」

「でも受験が終わるまではこういうのは我慢した方がいいんじゃないかなって思うんだけど。」

ここで我慢しなきゃもうこれから先も自分の欲求に勝てなくなる気がする。

「紬君ごめんね、これからは我慢するから。今日だけだから。」

そう言いながらゆっくりと体が引かれ、温かな幸福に包まれた。

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