第三十七話 続少女の艱苦。

 あの冴月さつき凛音りんねの口論があってから一週間、今日の練習にも冴月は来なかった。

練習どころか学校にすら来ていない。


 軽音の大会は八月の第一週、七月が終わる今から考えるとあと一週間しかない。

バンドメンバーを代表してうみにメッセージを送ってもらったけど、何も反応が無い。

一応明日本番でも曲を通してそれなりの演奏はできるはず、でもそもそも冴月が来なければバンドとして成り立たない。


 僕はもちろん凛音も海もこの大会にかけている、冴月だってそうだ。

だから、諦められない。何もわからないまま時間が過ぎるのを待ってられない。


 「紬、この後冴月の家行って話してきて。」


 「えっ、家って冴月の?急にいくのは流石にやばくないか。」


 「急にも何も連絡しても何も返ってこないならいくしかないよ。」


 「じゃあ海行ってよ、女子の家だし。」


 「はぁ……、あのさ、なんのために家まで行こうとしてるかわかってる?」


 「そりゃあ、まあ。」


 冴月がどうしてるか様子を見てまた練習に来てもらうために決まってる。

そもそもどうして来なくなってしまったのかもわからない内は何もできないから。


 「じゃあ誰が行くべきかははっきりしてるでしょ。」


 「え、なんで?」


 どうしてそうなるのかよく分からない、原因を知りたいから会いに行こうとしてるのに、海の口ぶりだとまるで分かりきってる事みたいだ。


 「もういいから紬が行ってきて、説明してやるのも馬鹿馬鹿しい。二人のことで練習できてないのに当の本人は何にもわかってない。本当にくだらない、わかった?紬が行くの、良い?」


 「わかった。」


 海の勢いに押されて了承してしまった。

まあ今のままじゃどうしようもないし、行ってみるしかないと思う。

それにこれ以上何か言ったら海の逆鱗に触れそう。








 学校の正門から出て、いつもと違う道を進む。

冴月の家には何度かバンドメンバーでお邪魔したことがあるから、なんとなく覚えている道を思い出しながら歩く。

予報では夕方から雨が降るって言ってたけど、空にはほとんど雲はなく、大外れになりそうだ。


 冴月のお父さんは大企業に勤めるサラリーマンでお母さんは専業主婦。

冴月は一人娘で三人家族で一軒家に住んでいる。

お父さんには会ったことはないが、真面目で優しいらしい。

ただ、仕事が忙しいらしくいつも帰りが遅いみたいだ。

お母さんにはお邪魔した時にあったけど、アニメ、漫画に出てくるような天然なお母さんって感じがした。「あらあら」とか「うふふ」って言いそうな感じ。


 そんなことを考えているうちに家の前まで来てしまった。

少し緊張で固まりながら、インターホンのボタンを押した。

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