第三十五話 次なる導。

 

 最近風がじっとりと蒸れて暑い。

汗で濡れた髪の毛が額に張り付いて気持ちが悪い。


 階段を降りて浴室に向かう、れんは……もう部活か。

夏休みに入ってから蓮は一層部活に意欲的になって、普段の生活でも怪我をしていた頃に比べ物にならないほどに明るくなった。


 「シャワー浴びてご飯食べて……、今日学校で練習か。」


 人の事ばかり言っていはいるが、僕も夏休みに入ってからは同じ休みでも春休みとは比べられないほど高校三年生らしい忙しさになってきた。

塾では夏期講習が始まり、受験に向けて、こんな言い方も変だけど、みんな盛り上がっている。

その中でも特に気持ちが入っているのは今年が最後になる軽音部の活動だ。

今度の決勝では関東地方全域から予選を突破した高校生バンドが集まり、ここでの優勝校は9月に行われる全国大会に出場できる。

僕たちにとっては大きなホールで演奏する最初で最後の機会だ、絶対に成功させたい。

この気持ちはメンバー全員が一緒で、最近は練習に気合が入っている。


 


 



 「おはよー。」


 「お!つむぎおはよー、久しぶりじゃん。」


 学校の視聴覚室に着くなり冴月さつきが元気に絡んでくる。

久しぶりとは言っても終業式はたった三日前のことだ。


 「どうよー、彼女さんとの進展はあったー?」


 「別にー。」


 「なんだよ冷たいなー、ちょっとくらい教えてくれても良いじゃん。」


 淡藤とはもちろん仲良くやっている、が、デートやイベントがなかなかないから人に堂々と言えることがない。

学校の友達に彼女の家で情事に励んでいますなんて言えるはずもないし。


 「やめなよ冴月ちゃん、あんまり詮索するもんじゃないよ。」


 「えー。」


 「おはよう紬。」


 「おはよ。」


 見かねた凛音りんねが冴月を諌めてくれた、こういう気遣いを意識せずできるモテる男。

ちなみにうみは「おはよ」とだけ言ってセッティングをしている、さすがクール系(勝手に言っているだけ)。


 「私はただ……、ちょっと聞きたかっただけだし。」


 冴月がまだブツブツ何か言っているけど、さっさと準備して練習しよう。


 「うしっ。」


 僕は重かったギターケースを背中から下ろしてピカピカに拭きあげたギターを取り出した。

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