第三十四話 日常の軌跡。

 朝、少し冷たい風に鼻をくすぐられて目を覚ました。

気づかない間に寝てしまっていたみたいだ、携帯で時間を確認しようとしたけど、電源が切れている。


 「あー、起きるか。」


 寝不足で少し怠い体を引っ張って来てどうにか顔を洗う。

とりあえず何か飲もう、喉が奥の方でくっついているみたいにだ。


 階段を降りてリビングに入ると、れんが家を出る準備をしているところだった。


 「おはよー、出かけるの?」


 少し声が掠れてしまった。


 「あ、お兄ちゃんおはよう、部活行く。」


 お兄ちゃんと呼ばれたことにまだ一瞬体が固まってしまう。


 「早速練習参加するんだ。」


 「そっ、やるならさっさとやらないと勿体ないから。」


 こういうところがアスリートだと思う、自分で決めたことにはとことんこだわって妥協しない。

自分に厳しい性格だからこそ全国でも活躍できるほどに努力できるんだろう。

このぶんなら案外すぐに元通りに走れる様になっているかもしれない。


 「じゃあ私行くわ。」


 「はーい、がんばー。」


 扉が閉まる音が聞こえた後、コップになみなみと水を注いで飲み干した。

水の冷たさがお腹に下っていくのが気持ちいい。

もう一杯飲んで朝ごはんを食べる、それが済んだらもう一眠りしよう。

それから曲を作って、勉強もしないとな、一応受験生だし。







 それから特に大きな事件もなく時が過ぎて六月も終わろうとしている。

蓮は部活に戻ってから順調に回復していって、リハビリを終えた頃からは見違えるほどに走れる様になった。

顧問の佐々木先生もこの調子ならすぐに大会でも記録を残せるだろうと言っていた。

ちなみに病院の先生もびっくりの回復力みたいだ。


 僕の方はどうだったかというと、学校のテストも受験勉強の方もまあまあ。

もともと塾に通っていたこともあるし、進学校だから周りの子もみんな積極的、それに加えて淡藤あわふじが勉強を見てくれるというのでお願いしている。

結果を言えば淡藤の教え方はとても素人とは思えないほど分かりやすかった、頭のいい人でも教えるのが上手い人とそうではない人がいる。

淡藤は前者で、自分の先生が淡藤だったらいいなと思うほどだった。


 部活の軽音楽は最後の大会の曲は無事完成、八月にある決勝戦の予選は演奏の録画を提出すること。

これは僕が緊張したせいで何度撮り直したか分からないけど、他のメンバーの励ましもあってなんとか突破。


 さらに言えば淡藤との関係も今まで通り円満。

相変わらずあまりデートには行ってくれないけど、やっぱりよく家に呼んでくれて二人で愛を育んでいる。

淡藤との時間は幸せで、二人で居ると温かくて穏やかな気持ちになれる。

ただ流石に受験生が彼女と遊んでばかりもいられないので、二人でどこかデートに行って残りの受験期間を頑張れる思い出が欲しいからまた今度誘ってみよう。

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