第三十二話 強者の言葉。

 久々にれんと喧嘩した日の夕食はこれまた久々に凍ったような気まずく静かな時間だった。

そんな時でも母さんは元気だったけど。


 「蓮ちゃん今日学校どうだった?」


 「えー、まあまあかな。体育の時間が暇だったくらい。」


 「え?もう少しずつ参加してるんでしょ?」


 「うん、でもサッカーだったから一応試合はやめろって先生が。」

 

 蓮はもう運動をしてもいいとは言うものの、やっぱりまだまだ本調子とは言えない。

だから特に授業のサッカーみたいな団子状態になりやすいものは足を蹴られてしまうこともあるだろうから先生の判断は正しい。

 

 「ああそうなの、じゃあ仕方ないね。でも暇なんじゃあ可愛そう、ねぇ?」


 「え!?あぁ、そうだね。」


 黙々と食べてたらいきなりこっちに振るからびっくりした。



 結局僕が食事中に交わした言葉はそのくらいで、食べ終わってすぐにお風呂に入って部屋に戻った。

喧嘩した相手と顔を合わせなきゃいけないのが兄妹の辛いところだよな。

そのせいで部屋から出辛い。


 ーーピロリン。


 「ん?」


 淡藤あわふじから今夜電話しようというお誘いのメッセージだった。

何となく嫌な気分を引きずってるから悩むな。


 「どーしよっ。」


 ーーガチャ!


 淡藤への返事に迷ってボーッとしていたら突然部屋の扉が開いた。


 「……。」


 本当に驚きすぎて逆に声が出なかった。

マジでビビった。

落ち着いて扉の方を見ると蓮が俯きながら立っていた。

どうにも落ち着かない様子でソワソワしている。


 「えっとー、どうした?」


 「……さっきはごめん、つむぎお兄ちゃん。」


 「…………え?、え!?」


 お兄ちゃん!?蓮が?僕のことを、お兄ちゃん???

これは夢か?蓮にお兄ちゃんなんて呼ばれるのなんて何年ぶりだろう。

小中学生の頃のまだ僕に懐いてくれていた頃を思い出す。

あの頃は可愛かったなー。


 「ねぇ、謝ってるんだけど。」


 あまりの突然さに一瞬現実から離れてしまっていた。


 「あぁ、うん。こっちこそ配慮が足りなかった。ごめん。」


 「うん、大丈夫。」


 「それよりどうしたの?お兄ちゃんって。」


 「っ!……。」


 改めて聞いてみると蓮は当目で見てもわかるほど顔を紅く染めていた。


 「蓮?」


 「お、お母さんに、怒られて。それで、お兄ちゃんって呼べって。」


 「え?母さんがお兄ちゃんって呼べって言ったの?」


 「いや、そうじゃなくて、だからさ、お母さんが聞いてきたから……。」


 蓮の説明はどうにも要領を得なかったけど、とにかくそうなんだそうだ。

正直お兄ちゃんと呼ばれたことが嬉しくて経緯なんてどうでも良くなっている。

呼ばれ方が違うだけなのに蓮がいつもより可愛く見える。


 「あんまり嬉しそうに見えない。嫌ならやめるけど。」


 「いやいやいやいや、嬉しい、から、そのままで。」


 「わかった。」

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