第三十一話 再びの乖離。

 「今週もなんとか乗り切ったー!」


 今日は週の終わりの金曜日。

授業も終わり、部活も塾も無いからさっさと帰って一眠りしたい。


 「つむぎ、この後なんか予定あんの?」


 同様にお疲れの様子の冴月さつきが机の前に来た。

ちなみに今日は先生にバレないようにこっそりようつべをスマートフォンで見ていた。

その器用さを他に生かしてみたら何かできそう。


 「今日は帰って寝る。」


 「へー、彼女さんと遊んだりしないの?」


 「あー、今日は疲れたからそういうのは無いかな。」


 「そっか、じゃっ、帰るわ。バイバイ。」


 「じゃねー。」


 俺も帰ろう。







 「ただいまー。」


 「おかえり。」


 ん?れんがいる。

いつもならまだ部活の時間のはずなんだけど。


 「あれ、帰ってたんだ。部活はー?」


 「あー、休んだ。あんまり調子良くないし。」


 「え?大丈夫なの?」


 「まぁ、うん。」


 あまり大丈夫ではなさそうに見える。

本人に直接聞くかどうか悩んでたけど……。

よし、聞くか。


 「蓮、ちょっといい?」


 「なに?」


 聞く方なのに緊張する。

変な汗が背中を伝っていった。


 「最近部活で悩んでることとか無い?」


 「……別に。」


 蓮の表情が明らかに不機嫌になった。


 「でもさ、環境が変わったばっかだし、今までと違う分何か」


 「何も無いって!」


 蓮の怒ったところをみるのは怪我が治る前以来だ。

もう慣れたものだと思ってたけど、面と向かって言われると心に負担がかかる。

でも僕と蓮との関係は以前とは違う、と思っている。少なくとも僕は。

妹が悩んでるなら兄として何かしてやりたい。


 「蓮、僕が頼りないのはわかるけどさ、もし学校生活で悩んでるなら一応先輩だし、部活のことも陸上やってたしさ。だから色々相談とか乗れると思うんだけど……。」


 「え?なんて?」


 蓮がボソボソと何か言っていたが聞こえなかった。

相談してくれる気になったのか?


 「だから!つむぎじゃ私の気持ちなんて分からないって!!!」


 「え……。」


 「学校のことだって何となくでここまで来て陸上だって中途半端のお遊びでやってただけでしょ!?そんなヤツに私がどんだけ苦しんでるかなんて分かるわけがないじゃん!冗談言うのもいい加減にしてよ。」


 自分の顔が熱くなっていくのが分かる。

確かに将来の夢なんて大層なものは持ってないし、陸上もやりたいことがなかったから友達に誘われた部活に入った。

だけどこの学校に入るために夜中まで勉強を続けたし、陸上だって県大会に出場するくらいまでは頑張って練習した。

高校に入って軽音を始めたけど、初めて自分からやりたいと思ったことだ。

確かに蓮に比べたら笑っちゃうようなものだろうけど自分なりに頑張ってきたことを否定されるのは不快になる。


 「はいはいわかった、何となく中途半端に遊んで生きてきたヤツはお呼びじゃないんだね。これは大変失礼しました。」


 ーーバタン!


 リビングの扉を乱暴に閉めて部屋に戻った。

その日はずっと心に靄がかかったような気持ちがしていた。

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