第二十話 初めての遊戯。

 退院した翌朝、れんが家に帰ってきて、我が家の空気が少し明るくなった。

その理由の一つに兄妹の距離が縮まった事が挙げられる。

今ではアニメの話題で母さんを置き去りにできるくらいには仲良く話せている。

それから、蓮は勉強、食事、お風呂、睡眠、スマートフォン以外の全ての時間と言って良いほど殆どの時間を陸上競技の練習に費やしてきた。

でも、今は参加できないため、母さんは何が暇つぶしになる物を買っても良いと言った。

その言葉に蓮は、


 「私ゲーム欲しい。片瀬かたせ君とかやってるやつ。」


 と言ったのだ。

正直に言って驚いた、いくらアニメにハマってサブカルチャーへの印象が良くなったとはいえ、親にゲームをせがむまでになっているとは思わなかった。


 「本当にいいの?俺とかけるがやってるゲームって結構激しいやつだよ?可愛いキャラとかあんまり出ないし。まあそれはものにもよるけど。」

 「そうだ蓮ちゃん、楽器とかは?つむぎにも教えてもらえるんだし。」

 「それも良いけど、片瀬君が話してて面白そうだったからゲームがしたいの。」

 「思いつきとかじゃない?」

 「違うってば。」


 僕と母さんはてっきりその場の思いつきと衝動で言ったものだと思ってたんだけど、こんなに意志が硬いとは。


 「わかった。じゃあ紬と何買うのか相談して、決まったらお母さんに教えてね。」


 妹の人生初マイゲーム機だ、絶対に楽しめる物をセレクトしてあげなければ!

というか今出ているゲーム機はだいたいうちにあるから実際に遊んでもらえばいいのか。


 「蓮、今日の昼から翔とゲームしようと思ってたからさ、一緒にやってもらって色々試したら?」

 「まじ?やりたいやりたい。片瀬君さ、プレゼン上手で気になっちゃってさ。」


 確かに。

翔は国語的な能力が高い。

物事を分かりやすく簡潔に話せる感じ。

創作は苦手らしいけど、テストの問題にはめっぽう強い。


 「じゃあ、昼食べたら僕の部屋ね。」

 「オッケー。」

 





 「紬、来たよ。」

 「オッケー、今翔ご飯らしいから、来る前にちょっと練習しとく?」

 「うん、する。」


 この様子だとだいぶ楽しみなんだな。


 「じゃあこれ持って。」






 蓮のセンスはゲームでも光った。

もちろんやり込んでいる人に比べたら足元にも及ばないが、今日初めて触ったとは思えない速さで上達して、それなりに楽しめている。


 「えーこれめっちゃ面白いね、ハマったかも。これにしようかなー。」

 「これは最近出たばっかりだから今から買っても全然長く楽しめると思う。」

 「良いじゃん良いじゃん、これにしよー。」

 「まあそんなに焦んなくても良いって。翔とやってみて決めようよ。」

 「オッケー。」


 それから三十分くらい経った後、翔が合流した。

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