第十一話 希う少年。

 かけるの遠回しな話をスパッとカットして簡潔に説明すると、グループ中のカップルの彼氏が春休みにも関わらずクラスの女の子と仲良く電話していた。

そしてバレた。

そこまではただのカップル間の問題で済んだんだけど、問題は彼女の方で、仕返しのために翔にベタベタし始めたらしい。

彼女さんは実際にあって遊んでいる時に彼氏に見える所でやるらしい。えげつないな。


 「で?彼氏は一丁前に翔に嫉妬してピリついてるんだ。」

 「そう、もうこの前遊んだ時なんか空気最悪。もう一人女の子がいてさ、その子が気を使っちゃっててかわいそう。もちろん僕も本当に嫌だし。」


 そりゃあ嫌だろう。

偶には真面目なことも答えてやるか。


 「俺もさ、恋愛とかろくにしたことないけどさ、友達のことだしに使って相手の気を引こうとするようなやつにわざわざ付き合う必要ないでしょ。

楽しく遊べない相手なんてもはや友達じゃないと思うよ。俺はだけどね。」


 実際そこまで人付き合いに固執してないけどそれなりに友達と呼べる相手はいる。

翔はせっかく体調も良くなって学校を楽しめるようになったんだから、精神的に無理して学校に行けなくなることになんかなってほしくない。

案外簡単なことで学校なんて嫌になる。


 「そうは言うけどさ、こうなる前は普通に四人で楽しく遊べてたんだよ。しかも僕だけ離れたらもう一人の女の子はずっと二人の間に挟まれちゃうことになるじゃん。」

 「多分お前が遊ばなくなったらそのグループ自体が解散だから。その子が気になるなら二人で遊べばいいし。あ、気になるって心配って意味ね。」

 「うーん。」


 翔が考え込んでしまった。

今まで仲が良かったから、関係が崩れるのが嫌なんだろう。


 「まあ自分で考えて決めるのが良いよ。もう夕飯の準備しなきゃいけないから落ちるわ。」


 窓の外はもう真っ暗だった。


 「そうだね、お付き合いいただきありがとうございました。」

 「硬いな。じゃーねー。」

 「またー。」


 翔との通話を終わってから、夕飯の準備をする。

我が家は母が仕事で忙しいので大きくなってからは僕の出来ることはしている。

料理は最初こそ厳しい評価をいただいたが、慣れればそれなりに出来る様に成る物で、時間もそれ程掛からなくなった。


 明日はれんの手術だから、寝坊してしまわないように早く寝よう。

もちろん僕が行って出来ることは無いけど。






 翌朝、手術の前に蓮に一声掛けようとして早めに家を出た。

空は春に似合わないねずみ色で、雨は降ってないがベタっと纏わりつく様な湿気が辺りを覆っていた


 「本当に最近天気悪いな。風が気持ち良くないー。」


 そんなジメジメした風を受けながら自転車を走らせる。






 病室に入ると、蓮は横になってスマートフォンを見ていた。


 「おはよう。」

 「んー。おはよう。」


 僕が声を掛けると、気のない返事をした。

えらく集中してるみたいだ、何見てるんだろう。


 新しい着替えを出しながら蓮に今日の手術の事を話す。


 「今日の手術頑張ってね。まあ頑張るのは先生か。母さんと淡藤あわふじからメッセージ来てる?」

 「えー?メッセージ……あー、来てるわ。」

 「淡藤今日来られない事申し訳ないってめっちゃ言ってたよ。何故か僕に。」

 「あわちゃんっぽいわ。別に良いのに。」


 今日は雰囲気も悪くならずに普通に会話できている。

なんかこういう兄妹の会話って良いな。


 なんて事を思っていると、看護師さんが来て、手術の準備を始めた。

僕は邪魔にならないように端っこに避けて、しばらくして蓮を手術室に見送った。

あれだけ疎ましく思っていたはずなのに、今は妹のことが心配になっている。それもかなり。

お願いだから何も無く上手くいって欲しい。

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