第五話 淡色の心覚え。

 今日から淡藤あわふじが蓮の面倒をみにきてくれる。

幼馴染とは言っても、お互い大きくなってからはあまり会わなくなった。

去年は特に淡藤の受験もあった。


 ーーピンポーン。


 淡藤かな?

遊ぶわけでもないのに、少しだけわくわくする。

久しぶりに会うからかな?


 「はい。」

 「あ、つむぎ君。久しぶり、元気にしてた?」

 「うん。あの、れんのことありがとう。」


 「本当は俺がやることだったのに。」言おうとしてやめた。

なんでかはわからないけど。


 「いいよ。私もたまきさんから聞いて、蓮ちゃんのこと心配で?陸上頑張ってたから。

紬君もわかるでしょ?」

 「あー、うん。」


 僕と蓮が陸上を始めたのは淡藤の影響が大きい。

淡藤は中学の部活動から陸上を始めて、大学でも陸上サークルに入るつもりらしい。母さんが言ってた。

そんな淡藤の楽しそうな姿を見て、僕は陸上をやろうと思った。多分蓮も。


 「じゃあ、蓮は部屋にいるから。僕も部屋に行くね。なんかあったら呼んで。」

 「えー、紬君行っちゃうの?久しぶりにあったお客さんを一人にしないでよ。」

 「昔から勝手にきて一人で遊んでたじゃん。」


 淡藤は大人びていて、歳は一つしか違わないがお姉さんって感じがするし、肌も健康的な色で顔もかわいい。

しかもショートヘアーだし。

というか僕は淡藤のせいで性癖が歪んだ。

だから、なんか、一緒にいると意識しちゃって恥ずかしい。


 「紬、久しぶりなんだよ。もうちょっと話そうよ。……だめ?」

 「わかった。」


 淡藤はたまにずるい。僕がそういうのに弱いと知っててやっている。


 それからしばらく淡藤と会っていなかった間のお互いにあったことを話した。

淡藤と話すのは楽しかったし、ドキドキした。


 「やっぱり紬くんといると楽しい。でもまあそろそろ、蓮ちゃんにも会ってくるね。」

 「うん。」


 蓮の世話をするために来たんだ。仕方ない。

部屋に戻ってスマートフォンを見ていると、二人の楽しそうに笑う声が聞こえた。

久しぶりに蓮のあんな声聞いた。




 ーーコンコン。


 「紬君、今日はこれで帰るね。」


 淡藤が部屋の扉を開けて言った。


 「ありがとう。またね。」






 夜になって母さんが帰ってきて、三人でご飯を食べた。


 「ねえお母さん、今日のあわちゃんすごいおしゃれだった!」

 「あわちゃんもう大学生だからねー。蓮ちゃんも少しはファッション気にしないと、制服じゃなくなるんだからね。」

 「まだいいの!その時はあわちゃんに教えてもらうし。」


 今日は蓮の機嫌が良い。淡藤のおかげだ。

そういえば蓮が病院に行くの、もうすぐだったな。

なんとなくそんなことを思って、その日は眠った。

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