第二話 手折られた花。

  ーープルプル、プルプル。


 こんな昼間に電話だ。珍しい。


 「はい。」

 『もしもし、かすみさんのお宅でしょうか。』

 「はい。」

 『私あずま高校陸上部、顧問の佐々木です。』

 「あ、兄のつむぎです。」


 同じ高校に通う一つ下の妹、れんが所属する部活の先生。なんだろう。


 『あ、お兄さん。ごめんなさい、練習中に蓮さんが怪我をしてしまって、中央病院まで来てくれないかしら?』

 「え?あ、俺で良いんですか?あの、保護者とか……。」


 こういう時は兄じゃなくて親が行くべきな気がする。


 『うん。本当は保護者の方に来ていただきたいんだけど、お母様の電話と連絡がつかなくて。』


 医療関係の仕事は忙しいからと思いつつ、やっぱり不思議に思う。

 

 「母の勤める病院の電話とか。」

 『うん。それなんだけど、お母様最近お勤め先が変わったでしょう?蓮さんに聞いても家にかけてくださいって教えてくれなくて。』

 「ああ、なるほど。」


 蓮は昔から母の仕事中に連絡が行くのを過剰に嫌がって、授業中に熱があっても保健室に連行されるまで隠したりしていた。


 「わかりました。すぐに行きます。」


 もともと暇なんだし、家族が怪我したんだから、行かない理由はない。


 しばらく自転車を走らせて、病院に着くと、待合室に座った妹と顧問の先生のえーっと、佐々木先生だ。がいた。

妹の蓮は長椅子に座っていて、僕が来たことに気がつくと、顔をしかめた。

なんだよ。わざわざきてやったのに、感じ悪いな。


 「霞くん、さっき一度診察して、レントゲンとMRIを撮って、これからまた診察だから。」

 「あ、わかりました。ありがとうございます。」


 先生の表情が硬い。まあ生徒怪我させたら責任感じるか。

蓮はずっと下向いたままだし、やっぱ辛いのか。

僕は怪我したことないからわからないけど、骨とかおれてるのかな?


 「霞さーん、霞蓮さーん」

 「はい。」


 蓮が返事をして先生に肩を借りて部屋に入る。



 診察室の中は、白かった。病院って感じ。

白い壁に白い机、白い照明。

うちの近くのおじいちゃん先生のところは壁にキャラクターのポスターがたくさん貼ってあったけど。

大きい病院はこんな感じなのかな?


 「蓮さん。」

 「はい。」


先生の口調は淡白だ。


 「MRIの結果、前十字靭帯を断裂しています。」

 「……え?」


 蓮も横で聞いていた先生も固まっている。

そんなに酷い怪我なのか?


 「あの、それって酷いんですか?僕、あんまりわからなくて、すみません。」

 聞いたらまずかったかな。

なんか、蓮の顔が見られない。


 「そうですね、蓮さんは若いので回復は早いと思いますが、手術とリハビリをして半年から一年はかかります。

でも、おそらく競技に復帰することはできます。」


 「そうですか」


 また陸上はできるみたいだけど、聞かなきゃよかった。

なんか僕が突きつけたみたいになってたりしないよな。


 「……。」


 蓮は黙ったまま俯いている。


 その後、これからの治療について先生から説明を受けた。

妹は、顔をあげて聞いていた。

普段と何も変わりない様子に見えた。

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