第3話 パーティー

 田中剣という青年と私が出会ったのは、私が29になろうかという時であった。私は観客の素朴な笑顔が好きなのであって、人間の欲望が渦巻く、ギラギラした場所は趣味ではない。26歳にして新進気鋭の実業家として大成した彼のパーティーに呼ばれた私は、社交辞令を済ませたらすぐにタクシーに乗って帰るつもりで支度をしていた。そもそも断っても良かったのだが、私は有名になりすぎたらしい。今度開かれるマジックショーのスポンサーの一人が彼だという。結局押し切られる形で出演することになってしまった。


 このパーティーに出演するべきではなかった。やはり私のマジックショーはパーティーの添え物だった。会場における話題のネタに過ぎなかった。誰もが拍手をしているように見えてその実、彼らの頭の中はパーティーの最中の商談の算段ばかりだ。サイコハンド・マイケルの特技である、ウェディングケーキひとつを結婚式で浮遊させるような規模の大きく派手なものではないのだから当然だ。私ではなくサイコハンド・マイケルを呼べばいいのにと私は内心で独り言ちた。しかし私もプロだ。中学生の時にこの生き方を決意したときにこのような状況でも全力を尽くすと誓ったのだ。

だから、私は今日も嘘つきだった。


 

 そしてすぐさま帰ろうとした私は、様々な人に3時間ほどみっちりと名刺の交換や世間話の名目で会場で立たされた後、くたくたになってしまった。仕方ないので今晩は個々で休もうとフロントへ赴くと、驚くべきことに会場となったホテルの一室があらかじめ3日分も田中剣の名義で予約されているという。嫌な予感がした。田中剣という男は実は私が目的でこのパーティーを開いたのではないかと。あの男もマジックではなく私が目的なのだろうか。今夜休ませてもらったら明日の早朝に立ち去ろうと決意し、私は鍵を受け取った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る