第11話 アイメイクにこだわるように

 今年は特に暖冬だった。

 どうしても神社に行きたいと姪っ子が言うので、初詣は家族そろって出かけた。父、母、姉の夫、姪っ子、私の五人。おみくじをすると、みな凶ばかりで驚いた。末社も一つ一つお参りをした。姪っ子はママに会えますようにと、お願いしていた。


 久しぶりに大男からのメールが入った。

「たぶん、君が言ってた人かもしれない」

 写真も添えられていた。

 へたくそな写真で全部ピントがずれていた。

 夢の中で見続けた彼女と限りなく近い姿をしていた。


 私は反射的に「ちょっと用事を思い出した」と言って、家族の列から離れた。

 早歩きで、神社の階段を下りた。

 ここは、姉が最期を迎えた病院に近いところにある。

 下りていくうちに、ビールさんとキスしたあの日が思い出された。


 あの日、姉が死んだ。もうちょっと無理をしてでも、苦しんでいる顔を見てでも、会いに行けば……と思い出して景色がにじんでくる。ハンカチを軽く押しあてて涙をふくと、マスカラのあとが点々とつく。あの時と違って、私はセツナさんに教えてもらった化粧の方法で、目元をしっかりさせて、就職活動を再開していたのだ。毎回、化粧をする時は、アイメイクにこだわるようにしていた。


 女になりたきゃ「眼」よ、とセツナさんの声を思い出す。

 大男のメールが実況中継のように何度も届く。

 私の吐く息はどんどんと白くなっていく。焦る気持ちと反比例に、足が前に進まない。

「間に合わないのかな」

 歩きながら、つぶやく。

「もう間に合わない。きっとたどり着く頃には、ビールさんは帰ってる」

 帰ってる、もう帰ってるから行っても無駄なんだ。ビールさんとはもう会えないんだ。会ったところで、私のことなんか忘れてる。

 そう言い聞かせて、歩みを止める。振り返ると、姪っ子が私を階段の上から見ていた。目が合うと小さく手を振ってくれた。


 携帯が震えだした。

 セツナさんからの電話だった。

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