第10話 心霊写真

 一階の受付でカゴの返却を済ませてもまだ私は心が虚ろなままだった。


「あのね、あんな姫みたいな服着てるけど、メロンちゃんが浮気してるの女の人なのよ。バイだから。ただでさえゲイはすぐやっちゃうのに、両方ともいける人に恋するともっと大変よ」と、私の耳元でセツナさんは話していた。


 セツナさんは「私はここまでだから、外まで送ったげて」と大男に話していた。

 受付にいる女装狙いの男たちが、チラチラと見てくる。ジロジロ見るな! と叫びそうになった。私は見世物じゃないんだから! 私は悔しさと怒りが自分の中で入り混じって、言葉が出てこなかった。


 結局、私と大男は無言のまま別れた。黒いマスクを、途中、コンビニのゴミ箱に捨てた。疲れ切った体で帰宅した。


 帰ってみると、姪っ子が、図書館から借りた心霊写真の特集本を熱心に読んでいた。「恐怖! 窓の外にうつる霊」。この世の中に残ったおぞましい思念。それを真剣な表情で見詰めていた。


 私は麦茶を飲んで、ぼんやりと天井を眺めた。身体は、ずっと小刻みに震えていた。そういえば私は姉にさよならを告げていない気がする。姉の写真はタンスの上に飾られ、日に日に増えていった。

 夢に、姉ではなくビールさんが出てきたことが何度もあった。あるはずのペニスがなくて、ビールさんは「女の子になれたー」と驚きと戸惑いと喜びが一度にきた表情をしていた。

 私も、とりあえずは一緒に喜んだけれども、どこか、これで良いのだろうかという気持ちが夢の中であった。

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