第5話ライフ・イズ・ミュージック

床上のアパートに逃げ込む。


床上は窓辺に座りながら本を読んでる。


「何読んでるんだよ!」


床上は黒縁眼鏡を取って、インテリ風に澄ました顔をする。


「三島由紀夫の金閣寺を読んでる。甘美な小説だ」


「よく小説なんか読む気になるな?」


「景川は小説は読まないのか?」


「んなの読んでる暇はない」


床上の親は資産家である。なのにこんな地味なアパートに住んで、お風呂ランドでバイトをして独立してる。


俺だったら親の脛をかじりまくると思う。


どちらかといえば貧民育ちの俺と床上とではこれまでの環境の差がかなりある。


床上のアパートは地味だが、八畳に二畳の台所が付いていて、男一人なら充分の広さだ。


棚には所狭しと本が山のように並ぶ。


実用書くらいしか読まない俺でも興味ある本が沢山ある。


例えば「死ぬまでに見たい映画1001」パラパラめくると


「うえ〜「ダークナイト」は観たな。「ゴッドファーザー」も観た。「ノーカントリー?」ああ、暗殺者の話か、観た」


「貸してもいいけど、重いだろ?」


百科事典みたいに分厚い本だ。18年間で観てる映画は限られてるが、映画を観るのは大好きである。


棚に一角にDVD やBDが2列くらい並んでる。


クラシック映画が多い。


「AVとかないのかよ?」


「あるとしても人目につくとこには置かないだろう」床上は苦笑する。


あっ、そうか仁科から逃げてたんだっけ。


床上に事情を話す。


「ふ〜ん、お前の彼女がいいって言ってんなら、犯しちゃえばいいじゃん」


「そうだよな。悪い話じゃないよなぁ」


「羨ましいよな、お前は。女に不自由してなくて」


「知ってるぞー、床上お前あのロリ巨乳の小森虹子に告られたろ?」


床上は一瞬目を泳がせる。「何のことか覚えがない」


床上は憤慨したように部屋を片付け始める。


「さて私は高校三年生、つまり受験生だ。君のように一年ダブって人生を謳歌してる暇はない、仁科でも抱いて満足してろ」


「分かったよ帰りゃいいんでしょ。しぇんしぇ」


「私はまだ先生ではない。先生になるのはあと7年後くらいだ」


床上は手を振る。さっさと帰れである。




雨がいつ降ってもおかしくない天候だ。


徒然草書房でCD を漁る。


物心ついた頃から音楽は常に流れていた。


親父が音楽オタクだった。


ロック、ジャズ、クラシック、JーPOP何でもありだ。


自然と音楽に触れること生きがいになっていた。


午後8時街は眠りについた。


2021(R3)5/25(火)









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