第123話 俺って、イケメンですよね?
今日もいつもと変わらないレジに立って、ぼーとしたり、お客の対応に当たったり、倉庫に行って品出しをしたりと、暇ではないが、かといって猫の手でも借りたいほど忙しいわけでもない、バランスのいい一日だった。
やっぱり、このバイトは俺にとって天職だ。ごくたまに
あと20分ほど
俺が戦略を
「いらっしゃいませ」
またきやがったか。
青みがかった短い髪にムキムキとした体つき。半ズボンから
典型的なマッスルマン。ボディビルダーばりに筋肉をふんだんに
日焼けした
つまり、コイツは俺がもっとも苦手とするタイプ。いじめの影響か、俺はガタイの大きい荒々しいタイプの男が嫌いだ。
別に俺に被害を与えるわけではないが、あのパワーのある体が俺の近くにいれば、条件反射的に身の危険を感じる。
俺は胸の中で早く買い物を済ませてくれと切に願いながら足りない商品を発注をしている。
なるべくあの青い髪を意識しないように普通に振る舞えばいいんだ。心ではそう思っても、体は言うことを聞いてくれやしない。
震える手をなんとか抑えながら深呼吸を数回してみる。落ち着くんだ。相手は俺に害を与えたりしないんだ。最近、ちょくちょくとこのコンビニを利用するし、レジで会計をする時も、俺をもものすごく真剣な顔で見つめたりするけど、問題…ないよね?早く誰か問題ないと言って!さもなくば、俺は別のコンビニを探すしかないよ?
ていうか、人が考え事している時に、いきなり物音を立てるのはやめてほしい。脳に電気走るみたいで、マジでビビるわ。
ああ、今の俺はコンビニ店員だから、仕方ないか。
気は進まないが、やるしかない。俺は静々とスポーツドリンクをバーコードリーダーにかざした。
やっぱりめっちゃ俺の顔ガン見している。別に顔に何か変なものがついているわけでもなかろうに、どうしてそんな厳つい顔で俺を睨んでるの?
「レジ袋一枚お願います」
「はい」
声も低い方で顔は相変わらず怖い。
俺は、ペットボトルをレジ袋に全部入れてから言う。
「全部で450円です」
すると、この青い髪の青年はお客様タッチパネルを数回タッチすると、500円玉を入れる。
よし。あとは小銭とレシートさえ出れば、この重苦しい空気から解放されるのだ。
もう少しの
幸いなことに、小銭とレシートが無事、出たので、俺は心の中で安堵のため息をついた。
しかし。
「あの…」
「はい?」
「ジムで運動をしてみませんか?」
「え?」
ずっと前から渋い顔で俺を見てきたものだから、大それたことを口に出すのではないのかと心配していたが、この男は、俺の予想の斜め上を行くことを言った。
ジムね…
気づけば俺の口が半開きになっていた。間抜けな表情でこの男の顔をしばし見ていると、この青い青年は口を開く。
「ずっと前から気になっていたんですよ。あ、ちなみに私、こういうものでして」
そう言って、この青い青年はいそいそと自分の名刺を俺にゴツゴツとした手で渡した。俺はそれを素早く受け取り、確認する。
ジムトレーナーの
横には、英語の資格名がいっぱい書かれているが、畑違いなので全くわからん。
俺が名刺と睨めっこをしていると、蒼井健司さんは話をつづける。
「あなたなら会費は無料にして差し上げます」
「え?無料?なんで?」
ただより高いものはない。この男、
すると、蒼井健司さんは髪をくしゃくしゃしながら視線を逸らし、恥ずかしそうに言う。
「すごくイケメンで格好いいですから、女性客がたくさん集まるための宣伝になるのではないかと…」
やめてよ!このウブな反応。ガチムチな体していながらのこの反応は、五十嵐麗奈レベルのギャップだぞ!
ていうか、イケメンって…
俺はありし日の記憶に思いを巡らせてみた。
モデルをやってないかと
結構いい感じのイケメンになったとボソッと
この前、USJに行った時、西園寺刹那と同じ大学に通う女の子からすこくイケメンだと言われたよな。
今まで、俺の顔が世間一般的に考えて、どれほどのものなのかは、あまり気にしてこなかった。顔なんか気にするほど今までの俺は心の余裕がなかった。
でも、上記のような言葉をいただいたこともあり、それらを集計すると、自ずと、結論はすんなり出てくる。
「俺って、イケメンですよね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます