第92話 お兄ちゃんは黙っておごられればいいの

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 西園寺刹那と同じ大学に通うと思われる女の子二人とのやりとりが終わってからは、ひたすらゆきなちゃんの案内にしたがって歩んだ。


 ミニオンパークやらサンフランシスコエリアやらを歩いていると、周りからすごく視線を感じた。「あの女の子めっちゃ綺麗だけど、彼氏いたんだね」とか「ファッションモデルとかやってるのかな?」とか主に外観をめる声があっちこちかられ聞こえる。


 俺は外出恐怖症のような奇病はないが、プログラミングの勉強がはかどらない時にカフェに行くこと意外はあまり外を出たがらない。つまり、こんな視線にさらされることはあまりなかった。俺は一人でいる時、本能的に目を腐らせているので、印象が悪くなって、自然とスルーされてきた。


 だが、この西園寺刹那はいつでもどこでも美人オーラを放っているため、こんな羨望せんぼうの眼差しが一瞬にして集まると言うことができるだろう。西園寺刹那は俺の方をチラチラ見ながら頬をあからめているが、視線自体には慣れているような感じだ。な、なんで見んのよ。


 急に気まずくなった俺は、何かいい話題ないか頭を引っ掻きながら考える。やがていい案が思い浮かんだ。時間的にも丁度いいタイミングでもあるし。


「そろそろご飯にしたほうが良くないか」


「そ、そうですね。丁度正午ですし」


「あ!あそこにあるカフェで食べよう!」


 皆んな空腹なのか、俺の提案をこころく飲んでくれた。


 流石にこの時間帯ともなると、どこもかしこも人で混むわけで、こことて例外ではあるまい。だが、丁度タイミングよく席が空いていたので、店員がテーブルまで案内してくれた。


 小一時間歩いたということもあって、俺たち3人は席に座るや否や、気持ちのいいため息をついた。そして、西園寺刹那が自分の妹に向かって問う。


「ゆきなちゃん、何食べたいの?」


「ゆきなは、マニオンのオムカレープレート!」


「うん!藤本さんは、何を頼みますか?おごりますよ」


「い、いや。悪いよ。自分の食べ物は自分で払うから」


「いいえ。今日は一日中ゆきなちゃんの我がままに付き合ってくれるわけだし、これくらいは当然私が出しますよ!ねえ?ゆきなちゃん」


「そうよ!お兄ちゃんは黙っておごられればいいの」


「そ、それじゃ、お言葉に甘えて…」


 俺は控えめに言ったが、西園寺刹那は満足顔でうんうん言いながら、早くメニューを決めるよう視線でうながした。


「パスタプレートで…」


「わかりました」


 本当なんなのこの姉妹は。


 妹に至っては、俺を完全に血の繋がった実のお兄さんのよう認識しているし、姉に至っては、高そうな外車のSUV運転するし、めっちゃおごってくれるし。


 完全に俺はこの姉妹にやられっぱなしだ。ていうか、姉と言っても、俺より年下だ。年下の女の子に一方的におごられるのはなんだか変な気持ちだな。普通逆じゃないか。 


 俺の抱いているこのもどかしい感情をなんとか訴えようとしたのだが、目の前の二人がいかにも楽しそうに談笑を交わすところを見ていると、もうどうでもよくなってきた。

 

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