第75話 付き合うんですか?
「この状態だと授業は無理ですね」
やっとゆきなちゃんが俺から離れてくれたところで、西園寺せつなが言った。
「まあ、そうだな。でも授業自体はほぼ終わりだったし、残った少ない量は宿題としてやってもらう方がいいかもね」
「そうですね」
時間は20時30分。外はすっかり暗くなっており、俺たちの別れが近づいているということを知らせた。
「ゆきなちゃん、そろそろ家に帰ろう」
西園寺せつなは優しく諭すような声音でゆきなちゃんの背中をさすりながら言った。だが、言われた本人はなにやら納得がいかない表情をしている。
「いや。今日はふじにいちゃんちで泊まる」
「ゆ、ゆきな!なに言っているの!お母さんとお父さん心配するから」
西園寺せつなはさっきの柔和な表情は一瞬にして消えて、胸元で手をブンブン振りながら反対の意を示した。もちろん、西園寺せつなの意見はごもっともだ。なので、俺も助勢することにした。
「そ、そうだぞ。こんなやばい男の家に泊まったらゆきなちゃんまでやばい人間になっちゃうからな」
俺は、笑顔のつもりが、顔を思いっきり引き
「大丈夫!あたしも、ふじにいちゃんみたいにやばい人間になるから!」
いかん。逆効果だったな。俺は困った顔で後ろ髪をくしゃくしゃしていると、隣にいた西園寺せつなが俺にジト目を向けてきた。
「藤本さん、ゆきなちゃんになにを言ってるんですか?」
西園寺せつなはギロリとギロチン顔負けの切れ味がしそうな眼光で俺を睨んできた。やっぱりこの子怖い。
「こ、これは…」
俺レベルの小市民ともなると、こんな怖い雰囲気を堂々と放つ人の前では、自然とだんまりを込めこむのが自然の摂理だ。俺が口ごもっていると、やがて西園寺せつなは柔らかい微笑みを浮かべて口を開いた。
「本当、藤本さんは変な人です」
「そ、それは否めない」
「ま、いいです。ゆきなちゃん、明後日は一日中藤本さんとユニバで遊ぶから、家帰ってプランとか練るんじゃなかったの?」
西園寺せつなは、今度はゆきなちゃんに向かって話した。すると、ゆきなちゃんはなにか思いついたように「あ!」っていうと、俺に申し訳なさそうに両手を合わせて語り出す。
「ごめん、ふじにいちゃん!泊まるのは今度にするね」
「こ、今度、ね」
「うん!」
俺は戸惑い気味に聞いたが、ゆきなちゃんは、まるでこの世に
兎にも角にも、話が一段落ついたので、この姉妹はそろそろ出かける支度をしている。ゆきなちゃんはいかにも高そうなランドセルに教科書と俺が用意した宿題のプリントをしまい、西園寺せつなは自分のノートパソコンを高級感あふれるブランドバッグに入れている。あのバッグ一つとっても、俺の半年分の食費なんか軽く超えそうだな。
俺が心底どうでもいいことを考えているうちに、二人は立ち上がり、俺を見つめている。俺は気を取り直すためのため息をついてから、すっと立ち上がってそのままこの二人を玄関まで送った。ゆきなちゃんは器用な手つきで玄関ドアを開くと、俺に向きなって微笑みならが言葉を発する。
「今日は色々ありがとう!」
「ああ、気をつけて帰りな。んじゃ」
「あの…」
俺は別れを告げようとしたが、突然、西園寺せつながそれを断ち切った。俺は気になり真横で立っている西園寺せつなを見つめた。すると彼女はすごく言いづらそうに口をもぐもぐしながら俺を繁々と見ている。な、なんだよ。
俺はまたこの美少女を怒らせるようなことをしたのかと、必死に思いを巡らせているが、それらしき手がかりが一向に出てこない。もしかして、俺の存在自体が問題なのではと自虐まじりのため息をついていると、西園寺せつなはやっと口を開いてくれる。
「さっき、つ、付き合うとか言ってたじゃないですか」
ゆきなちゃんが口にした例のアレか。別にあの件は俺がゆきなちゃんから逃げないということで丸く収まったはずだけど、どうして今更終わった話を
疑問と謎が
「ああ、ゆきなちゃんが言ったアレか。別にいいんじゃないの?」
「え、えっ?!いいって、つ、つまり!」
「ズバリ」
ゆきなちゃんがいきなり面白そうな顔で割り込んできたが、俺は気にせず西園寺せつなに視線を向けたままだ。
「付き合うんですか?」
「…」
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