第70話 藤本くん!ちょ、ちょっと!
今日中に電話をかけるくるなんて、思いもしなかった。
疲れは取れているはずなのに、また新たなる疲労感が俺の上にのしかかるのを感じた。
携帯はそういう俺の気も知らずに、振動する。
俺はやれやれとばかりにため息をついてから、電話に出た。
「もしもし」
「藤本くんだよね?」
「そうだけど」
「ごめんね。夜分遅くに」
「いや、そんな遅くないから別にいいけど。ていうか、なんの用だ?」
俺は、なるべく会話を短くするために用件だけ聞いた。
「今日話した件についてだけれど、今週末に時間大丈夫かしら?」
確か、日曜にユニバーに行くって約束をゆきなちゃんと西園寺せつなとかわしたっけか。
「日曜は予定あるから、土曜日なら空いてる」
「そ、そう。わかった。なら土曜日にまた会いましょう。場所と時間は追って連絡するわ」
「わかった。んじゃ、」
「藤本くん!ちょ、ちょっと!」
俺は早く電話を切ろうとしたが、五十嵐れいなは待ったをかけてきた。声音から、慌ただしさが感じられる。
「な、なんだ?」
「い、いいえ。なんでもないわ。それじゃ」
「ああ。切るぞ」
俺は通話終了ボタンを押して、電話を切った。彼女が何を言おうとしたかは分かりかねる。だが、別に今じゃなくても、土曜日に聞いたらいいだけの話なので、俺は再びベットにダイビングし、明かりを消した。
今日は色々な事があったな。やっと眠れそう。
X X X
4日経って金曜日。
時間というのは振り返ると早く感じられるものだ。火曜日は大禍なく過ぎ、水曜日は俺の家にやってきた西園寺姉妹と一緒にご飯を食べて、無事に授業を終え、木曜日は本当に何もなかった。たまに、青山かほがちょっかい出したりするんだが、まあ、これにもだいぶ慣れてきたので、精神的ダメージは少ない。
今日の俺はというと、コンビニのユニフォームを着て絶賛仕事中である。本日は晴天と相まってお客も少なく、のんびりしながら発注をしている。もうすぐ17時になるわけだし、あの子が軽い足取りでやってくるだろう。
噂をすると影が差すという言葉があるように、タイミングよく、自動扉が開いた。金髪巨乳さんのお出ましかと視線を送るが、そこにいるのは、黒髪巨乳とロリっ娘だった。あ、
「ふじにいちゃん!」
「ちょ、ゆきな!コンビニで走ったらダメでしょ?」
ロリっ娘は俺を見るが早いが、たたたっと
「お仕事ごくろはんなのだ!」
「その口調、おっさんくさいぞ」
「えへへ、ふじにいちゃんって褒め上手よね」
「いや、褒めてないし」
親指を立ててサムズアップポーズをとっているゆきなちゃんに俺はげんなりしながらツッコミを入れてやった。
「すみません。お仕事中に」
間もなく、後ろから歩いてきた西園寺せつなは俺に謝って、ゆきなちゃんの頭にとても優しいゲンコツを食らわした。ゆきなちゃんは立てていた親指をすっと引っ込めると、自分の頭をさも楽しげに撫で撫でしながらでへっといたずらっぽく笑う。
俺は目の前にいるこの二人に、いつものセリフを吐く。だが、表情はいつもの接客用ではなく、誰もが拒否反応を起こすようなゾンビさながらの腐った顔。
「何かお探しでしょうか」
俺の問いに、西園寺せつなは納得顔でこくりと頷いてから、笑み混じりの
「藤本さんです」
「…」
以前にも似たようなやりとりをしたような気がしてきた。あの時の彼女は
「な、何か言ってください!恥ずかしいから!」
いや、だったら言うなよ。こんなの、少年少女漫画に登場する超イケメンと超美少女の間でしか成り立たないセリフだから、やめてくれ。言われた俺まで恥ずかしくなっちゃうじゃねーかよ。
と、つい、視線を外してアブラマシマシの豚骨ラーメンを食べ終わった時の脂っこさのような窮屈な気分を味わっている俺は、苦し紛れに言葉を吐く。
「もうすぐ終わりだ。だからちょっとだけ待ってくれ」
俺がため息まじりに伝えると、西園寺せつなは桜色に染まった頬を隠すように俺から目を背けると、ボソッと言い捨てる。
「わ、わかりました。外行こう、ゆきなちゃん」
言って、彼女は自分の妹であるゆきなちゃんの手をとって、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます