第69話 五十嵐れいなと過去といじめ
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藤本悠太の部屋
家に着いた頃は、夜9時が過ぎていた。
ゆきなちゃんの家庭教師を引き受ける前までは、仕事が終われば17時で、22時まではなにやっても誰に文句言われることもなく、自由気ままな生活ができていた。しかし、今日は、西園寺姉妹とのやりとり、ゆきなちゃんの授業、俺の過去を知っている五十嵐れいなとの連絡交換と、実に色々な出来事に見舞われた。
おかげさまで、身も心も
昔のトラウマのせいか、俺は人と関係を持とうとすれば、極度の疲労感を覚えてしまう。相手を分析し、言葉を発して情報を伝える。一見簡単そうに見えるが、人間の「
男性の方は割とわかりやすい。なぜなら俺も一応男だし、俺を今まで虐めてきた人々も全員男性だから、データは十分すぎるほど取れている。
問題なのは女だ。スティーヴン・ホーキングという天才物理学者をご存知か。彼は地動説を主張したガリレオガリレイが死んでから丁度300年後に生まれ、アインシュタインが死んだ日と同じ日である3月14日この世を去った。
彼曰く「宇宙より女の方がミステリアス」。つまり、我々の常識をはるかに超える宇宙の神秘をもってしても、女の心には勝てないということだ。
今日の出来事を思い返してみれば、彼の言った言葉は実によく言ったものだということがわかる。
まず、西園寺姉妹。
今日会った時、なんで俺にあんな冷たい態度を取ったんだろう。まあ、結果的に別れ際には上機嫌だったからよかったものの、今後このようなことが起こらないとも限らないし、用心しておいて損はなかろう。もしかして、この前、青山かほと食べたぼっかけ焼きそばとなんらかの関係があったりするのだろうか。ないですよね。
『あたしはふじにいちゃんがいいの!』
本当にゆきなちゃんはおかしな子だ。
まあ、今のところは、ゆきなちゃんや西園寺せつなについて考えても、ろくな結論は見つけられそうにないから、次へ移行しよう。そう。五十嵐れいなの存在についてだ。
小学校を入学してから卒業するまで、俺たちはずっと同じクラスだった。
出来損ないの奴隷のようにずっと殴られつつけてきた小学生だった頃の俺の目には、五十嵐れいなが属しているグループはまるで天系に君臨する女神のように映った。俺はというと、火と
時は、小学生だった頃に
『宿題やってない?このクズが!お前が宿題の答え見せないと俺たち先生に怒られるだろ!」
『いたっ』
怒り狂った顔で、俺をいじめる奴らの中のトップは思いっきり俺の腹部を蹴り飛ばした。倒れてお腹を抱える俺に、奴は近づき、俺の胸ぐらを思いっきり掴んだ。
『どう責任とってくれんの?このクズ!』
彼は俺の顔を殴るために手を挙げた。彼の表情は、まるで、害虫でも見ているかのようだ。奴は本気で怒っている。普段なら、先生にバレないように、顔以外のところを狙うけど、今回に限っては俺の顔面を思いっきり殴るつもりでいるらしい。
『
俺を虐める集団のもう一人が真司に対して皮肉めいた口ぶりで言った。
『あ、そうだったな。おいクズ、これからは俺がお前の宿題破ろうとしたら止めろよ?』
怒りは鎮まったが、不機嫌な顔で俺を思いっきり睨みつけてくる真司は俺に無茶な要求をしてきた。
仮に、反論したら、お前は、お前らは『口答えすんな』とか無理難題言いながら俺をもっと殴ってくるのがオチだ。だから、俺にできるのは一つしかない。
『うん』
俺の返事を聞いた真司は、やっと俺の胸ぐらを掴むのをやめて、立ち上がる。
こいつは、無言の圧力をかけて
俺は倒れたまま未来のことで頭を悩ませていると、女の子が偶然通りすぎた。あの子は、五十嵐れいな。
『れ、れいなちゃん!』
真司が突然、五十嵐れいなを呼び止めた。さっきまで見せていた
『…』
名前を呼ばれてピタッと足の動きを止めた五十嵐れいなは、真司のいろところに向き直った。もちろん俺も真横にいるため、彼女の姿が全部見える。
『再来週の林間学校の
真司は気恥ずかしげに視線を泳がせている。その反面、五十嵐れいなは至って冷静だ。
彼女は倒れている俺の姿を
『もうすでに決めてあるの』
『そうなんだ』
真司は残念そうに深々とため息をつくが、五十嵐れいなは一瞬の
『本当かわいいな。れいなちゃん』
真司の頬は赤く染まり、法悦に浸かっている。
本当に獣だ。アニマル。どうしてこの世はこんなケモノらが幅を利かせるのを許すのか。昔の俺はずっと疑問に思っていたものだ。
今になって振り返ってみれば、本当に辛い
まあ、要するに、俺の記憶の中での五十嵐れいなという存在は上記の出来事以外ない。
一つ気になるのは殴れれて倒れ込んでいた俺を一瞥した小学生だった彼女の顔と、今日トイレの前で見せたあの表情はどこか似ているようにも見える点。
冷静になった今だから見えてくるのだ。彼女の見せた面持ちはきっと、他のケモノどものあれとは根本的に違うのが。
シャワーでも浴びよう。
今は体全体が、太陽の余熱で
体を綺麗に洗うことも、俺の数少ないストレスの捌け口だ。
ふと、鏡を見る。
冷たい水に濡れた細マッチョな上半身と整った顔。そして
「目はやっぱりやばいな」
そう呟いてからシャワーを再開した。
数十分ほどが経ち、タオルで体に付着した水気を拭き取ってから、夏用のジャージに着替えた俺は、冷蔵庫に置いてある
「ぷあ!」
一日の疲れを吹き飛ばすように、
今日はもうなにもする気力がない。明日は、コンビニのバイトだけだから、心穏やかでいられそう。
と、伸びをひつとしてから明かりを消そうとしたその瞬間。
ぶーぶーぶー
一定の間隔で鳴るバイブレーションに、俺は自分の携帯が置いてあるテーブルに視線を送る。どうやら誰かさんから電話がかかってきたような。
まあ、可能性としては、ゆきなちゃんか西園寺せつなか青山かほくらいか。と、考えながら、ベットから立ち上がり、テーブルに置いてある携帯を手に取って画面を見る。
五十嵐れいな
「マジかよ」
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