第23話 西園寺せつなは追いかけてくる

 もういい。これでいいんだ。この姉妹と関わりを持つ理由は何一つない。現実離れした変な根暗男のわがままに付き合わされたとでも思ってもらいたい。俺は目の前にいる美人姉妹だけが嫌ってわけではない。人間は基本嫌いだ。俺をいつも利用しようとして快楽を得る。もうタダでサービスを提供するのはしたくない。

 

 俺は人間たちの自己中心的な価値観から生まれる利権争いを毛嫌いしている。でも、俺だって、いじめられない生活、搾取されない生活を守るためにこの姉妹に、あんなひどい事を言ったのではないだろうか。結局、自分を守るために自分の利権を守るために俺は今まで逃げてきたのではないだろうか。


 自分が嫌いになる。


「私は、私は、ふじにいちゃんのこと大好きだよ」


「え?」


 予想だにしない言葉が俺の耳をくすぐる。小さくて力の入ってない声なのに、まるで、俺の鼓膜をつんざくような破壊力があるように聞こえた。戸惑いながらゆきなちゃんを見ると、涙はすでに頬を伝ってぽつりぽつりと地面に落ちている。


「な、なんで泣くんだ?」


 大慌てでゆきなちゃんに聞く俺。周りからしてみれば、かわいい子供を泣かせている不審者に見えるだろう。


「だって、ふじにいちゃんが嫌いって言っているから」


 自分の腕で涙を拭きながら震える声でゆきなちゃんは言った。西園寺せつなは泣きじゃくる自分の妹の背中を優しくさして、俺をきつく睨みつけた。やっぱり怖い。


 しかし、気を緩めるな。子供も大人も同じだ。程度の違いはあれど、結局本質は一緒。きっとあれは嘘泣きで、俺になんかを要求するためにあんな演技をしているに違いない。あの子は、俺に一体何を求めているのか。頭を振り絞っても答えらしき答えは出てこない。


「何か、言いたいこととかないんですか?」


 私の妹を泣かせるなんていい度胸しているねみたいな目線を俺に送りながら問い詰める西園寺せつな。彼女の威圧感のある眼光は、俺の心臓さえも貫く勢いだった。この状況を打破する方法はただひつと。


 俺はクヨクヨしながら口を開いた。


「さよなら」


 そういった俺は、かかとをくるっと返して姉妹を後にした。正直、「逃げる」というのは最高の手段だけど、俺の勤めるコンビニを嗅ぎつけた時点でこの方法が通用しないのは火を見るより明らかだ。


 俺の予想は的中した。帰路につく俺を追いかけている西園寺姉妹。


 間隔は5Mほどを維持して、俺が止まったら止まって、また歩き出したら、彼女らも歩調を合わせる。どうしたものかと、後ろを振り向くと、知らんふりをする。なにこの状況。美少女二人に尾行されてますけど?これ警察に通報したら、逆に俺が疑われて変人扱いされるよね?


 交差点を過ぎ、俺の家のある路地裏に入っても、二人のストーカーはあいも変わらず、ついてきている。ちょっとだけ後ろを振り向いて様子を伺ってみた。西園寺せつなはフグのように顔を膨らませてふてくされている。ゆきなちゃんは涙こそ流さないが、悲しい表情で俺の方をチラチラみている。まさかここまで追いかけてくるとは。本当にどうなるのこれ。


 数分ほど歩くと、俺の住むマンションが現れた。なんの変哲もない古びたマンションで、セキュリティとか最新のシステムなどは設置されてないため、外部の人もすんなりと入ることができる。

 

 俺は階段を上って部屋のドアの鍵を開けた。それと同時に素早く中に入ってドアを閉めようとするが、閉じる瞬間、細くてすらっとした綺麗な足がそれを遮る。すばしこさが俺の数少ない長所なのに、この女は俺の一歩上をいくようだ。


 しばらくすると、ドアから凄まじい力が感じられた。やがてドアは謎の力によって完全に開け放たれて、そこには、誰もが羨むような美貌の持ち主・西園寺せつなが仁王立ちで俺を睨め付けていた。


「藤本さん、今度は逃がさないって言ったでしょ?」


 しかし、怒ると非常に怖いのが玉の傷だが。









追記


 おかげさまで600PVを超えることができました。私の小説を読んでいただき本当にありがとうございます。感謝の言葉しかありません!

 これからは、藤本悠太と西園寺姉妹との会話がメインになると思います。


小説は毎日午後6時に投稿するので、応援の程よろしくお願いします!(場合によっては前後する場合があります)








 





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