第2話 藤本悠太という人間
俺の名前は藤本雄太。
24歳にして神戸三宮付近で一人暮らしをしている。コンビニのバイトをやりながら切り盛りしている一見何の変哲もないフリーターに見えなくもないが、もともと一流企業でそこそこいい給料をもらいながら働いていたサラリーマンだった。
なぜコンビニで働いているのかという人もいるかもしれない。しかし、俺には言い分というものがあるのだ。
有名国立難関大学に首席合格し、首席卒業を果たし、五本の指に入るような超大手企業にそのまま就職。絵に描いたような煌びやかな人生を歩んでいるようにも見えるかもしれない。しかしそれは俺にとって地獄であり、救いでもあった。
殴られない為には、他人の役立つ人間にならないといけない。いじめられない為には優秀な人間にならなけらばならない。自己中心的で傲慢な糞人間にサービスを提供すれば、いじめられること、殴られることはない。
中学生までずっといじめられてきた俺はその事実に気が付き、高校生に上がると、必死に勉学に励み、自分の本音は決して言わず、卑屈に生きる。そしたら、たいていうまくいく。
家が貧乏だったため、国立大に進学。もちろん大学卒業まで友達なんか一人もできた覚えはなく、スカラシップをもらいながら、ほぼ学費0円で卒業。
俺は一人でこの偉業を成し遂げた。お金は一切使っていない。youtubeやgoogleなどで、検索したらほしい情報が出てくる。高い学費の予備校に通わなくても、学校一になれるのだ。
俺は賢い。ゆえに会社という集団は俺にとって地獄のような環境であった。株式会社とは株主に利益を配当金という形で還元する閉鎖的な利益集団。つまり、俺が毛嫌いする人間とぶつかりあって生活をしていかないといけない戦場だ。
俺は臆病者で、持つものと持たざる者の壮絶な利権争いから逃げてきたが、会社という輪に入ってしまったがため、それができず俺の心は傷ついてしまった。
正しいものは裁かれ、無知な者、声の大きい者、他人に責任をなすりつけてすり抜ける者は評価される。そんな腐りきった組織なんかいくらお金をくれるとしてもこっちから願い下げだ。
なので俺は会社を辞めてアルバイトとしてコンビニで働いている。面接を受けた時は、店長が俺の履歴書を読んで絶句していたな。
しかしここは俺にとって魅力的な場所だ。レジが一つしかない小さなコンビニだし、基本一人で仕事をするわけだから人間関係でストレスを受けることもない。
お客に対しては、高校時代に培った卑屈なサービス精神で接すればうまくいく。
友人ゼロ、家族とも連絡はほぼなし。
ああ、楽しい。実に楽しい。大人になっても腐った人間と深くかかわることなく生活することができるなんて本当に素晴らしい。
これ以上のことは望むまい。なぜなら俺の心は傷ついているから。
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