第213話 素敵な素敵なカウントダウン
冬まっしぐら……とまではいかないけれど、少しずつ季節の変化を感じる十一月の終わり。
街の雑貨屋は一足早くクリスマス一色になり、鈴の音と数え切れない程聴いた冬のPOPS達が年末気分を囃し立てる。
「ねぇ雫…………雫?」
気が付けば、彼女は通り過ぎたブースで店員に何かを尋ねていた。
何かあれば私に真っ先に聞いてくるだろうから……野暮ったいことは止めて、いつか訪れるであろうその想いに躍らされ、流れるPOPS達を口ずさんでいた。
◇ ◇ ◇ ◇
「おはよー。ふふっ、今日から十二月だ。日曜日から始まるってなんだか気分良いね」
「お、おはようございます。その……おはようございます……」
朝、顔を洗ってリビングへ向かうと……顔を真っ赤にした彼女はしきりに目を泳がせながら固まっていた。
何度も泳ぐ目線の先は…………
「わぁ……可愛い……なにこれ……?」
壁に飾られているフェルトで出来た可愛らしい大きな雪だるま。
一から三十一までの数字が貼られた色とりどりのポケットが付いており……それがカレンダーと理解するのに、時間はかからなかった。
「ア、アドベントカレンダーと呼ぶものらしく……その、本来は十二月一日から二十四日まで、二十四個の数字が書かれた引き出しやポケットにお菓子や雑貨等が入っていて、クリスマスへのカウントダウンで使用するものらしいんです」
彼女お手製の、世界に一つだけのアドベントカレンダー。
先日雑貨屋で見た景色と想いが繋がっていく。
「せっかくなので……今年の終わりまでカウントダウンしていただけたらなと思いまして……その……」
耳まで赤く染まっている彼女を強く抱きしめて、彼女の好きな顔で微笑んだ。
「ふふっ、凄く嬉しい。私のこと……好き?」
聞かなくても分かるし、言わなくても伝わっているけれど……でも、いつだって聞きたいし、言って欲しい。
「……大好き」
私の胸へ顔を埋めて呟く彼女。
彼女同様私も顔が赤く染まり……今見られたら恥ずかしいなと隠すように抱きしめる力を強くした。でも……
「ふふっ、この雪だるまに見られてるみたい」
「ふぇ?! だ、だめですよ? 私の晴さんなんですから」
雪だるまに向かって指でバッテンを作っている。可愛すぎてカレンダーどころではなくなってしまいそうなので、グッと堪えて話を戻した。
「……今日は一日だから、一のポケットを開けてもいいのかにゃ?」
「は、はい……」
膨らんだポケットにはハート型のチョコレートと……可愛らしい小さな手紙が一つ入っていた。
「ふふっ、可愛い。読んでもいい?」
恥ずかしさが頂点に達しているのか、彼女は頷くだけで精一杯。
その中身は……
“ラッキーアイテムはチョコレート。好きな人と食べると吉”
どんな気持ちでこれを書いたのかを想像しただけで……我慢出来なくなってしまう。
雪崩れるようにソファへと押し倒して唇を塞ごうとしたところ……赤面涙目の彼女は床に落ちたチョコレートと私を交互に見つめていた。
……ホント、可愛すぎるんだから。
「ふふっ。このチョコレートは……誰と食べるとラッキーなんだっけ?」
「…………私です」
こんなにも幸せなカレンダーが、あと三十回も待っている。
今年もあとひと月。素敵な素敵なカウントダウンが始まった。
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