第195話 晴爛漫


 木葉採月、散歩道。麗らかな木陰の下、季節の匂いに誘われてぶらりとお散歩中。

 春色コーデと題した晴さんはいつ見ても美しくて……そんな晴さんにお願いし見繕ってもらった今日の私は晴色コーデ……なんて、考えていると──


「ふふっ、私のこと考えててくれた? 当ててみせようか?」


「や、やめて下さい……その……外れたこと、無いじゃないですか……?」


 ベンチに座り火照った顔を冷ましていると、それを隠すようにあなたは可愛らしいストローハットを私に被せてくれた。


「始めの文字は“は”で、最後の文字は“で”、じゃない?」


 隠れる場所も無いので、帽子を深く深く被り……小さく頷いた。

 恥ずかしいけど当たっていて嬉しい……なんて我儘な気持ちなんだろう。


 あなたは隣に腰を掛け、舞い散る桜の花弁を眺め微笑んでいる。その横顔が何よりも可愛くて……恥を忘れて、眺めてしまう。


「……ちょっと前までは蕾だった木々を眺めるのが好きだったの。開花してからは色付き始めたその景色が好きだった。今は満開の桜が散るこの瞬間が好きなのに……きっと次に来る時は葉桜の若緑が好きになってる。ふふっ、どうしてか……当ててくれる?」


 様々な講釈が頭の中で巡っているけれど、どれも見当違いだと直ぐに理解した。

 答えが私の中にあるのなら……そう思い、あなたと見たその一つ一つの景色を思い浮かべ…………

 徐々に見開いていく私の目。呼応するように、顔が赤くなっていく音がする。


「ふふっ、正解」


 桜の花弁を私の手のひらに握らせて、おでこに優しくキスを貰う。

 疼く唇。あなたがくれた桜の花弁を潰さないよう手を握り、強請るように瞳を閉じた。


 日一日、瞬きで切り取った数だけある季節。

 幾千万。どの季節にも、どの景色にもあなたがいてくれるから、私は……私も、今が一番好きなんです。 

 微かに触れ合っていた指同士を絡め合い、往来する人々が居なくなればキスをした。


 吹花擘柳舞う桜。黄色の通学帽、燥ぐ笑い声。

 愛する人の微笑みに……見上げれば、顔を覗き始めた葉芽達。

 春爛漫。私の世は……晴、爛漫。


「……今、私が考えていたことを…………当ててくれますか?」


「ふふっ、いいよ? んー…………ふふっ、これかな。晴──」


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