第187話 甘々ショート 大晦日


 大晦日の夜。今日は晴さんと近所にあるお寺に来ています。

 除夜の鐘まではだいぶ時間がありますが、山内は人数が多く賑を見せています。


「私こういうの初めてかも。大晦日も元旦も家にずっといたし……ふふっ。この雰囲気、なんだか特別な感じがしていいね」

 

 大きめでゆったりとしたコートを羽織っている晴さん。時折風が吹けば、その中に私を取り入れて抱きしめてくれる。

 一年の締め括りも、あなたの匂いに包まれて幸せいっぱいです


「へぇ、甘酒無料で配ってるよ。飲んだこと無いかも」


「では取り敢えず一ついただいて……シェ、シェア?してみましょうか」


 あなたを真似て今風の言い方をしてみると……コートの中へ取り込まれ、強く強く抱きしめられた。

 上を向けば、幸せで息ができない程のキスが降り注ぐ。


「ふふっ、一年の最後も……雫で満たされて幸せ」


「わ、私も……幸せ過ぎて甘酒が溢れてしまいます……」


「もー……一緒に飲もっか」


 人の少ない山内の隅へ行き、湯気で伊達眼鏡を曇らせながら可愛らしく甘酒を飲む晴さん。 

 優しく紙コップを手渡され、幸せのお裾分け。


「……甘酒と言えば、小さな頃村のお寺でもこうして大晦日に配られてまして……夜の八時頃、普段は外に出られないような時間にお出かけをして甘酒を飲んでいる自分が……少しだけ大人に感じて、なんだか背伸びをしていた記憶があります」


「ふふっ、可愛い。じゃあさ、今背伸びしたら……どうなると思う?」


 いたずらっぽく微笑み目を瞑るあなた。

 背伸びしたその先は、何よりも甘い大人の味がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る