第185話 甘々ショート いただきます


 朝、晴さんが日課である郵便受けと宅配ボックスの確認に行き、小包みを一つ持って戻って来た。


「お父さんから何か届いてるよ。袋に二十年前って書いてあるけど」


「なんでしょうか? 開けてみましょう」


「何が出るのかにゃ…………これって……カセットテープ? スゴイね、実物初めて見たよ」


 カセットテープなるものをまじまじ見つめる晴さん。可愛過ぎるので、まじまじと見つめさせてもらっています。

 

「でもこれ再生出来る機械無いし……栞に聞いてみよっか」


 そう言ってさっそく電話をかける晴さん。

 ビデオ通話で栞さんにカセットテープを見せています。


「えっ? カセットテープじゃないの? DVテープ? 何それ…………へぇ、それで変換できるの? じゃあお願いね」 


 ◇  ◇  ◇  ◇


 というわけで、栞さんがDVテープなるものテレビで再生出来るようにする機械を持ってきてくれました。

 ほんのりとお酒の匂いを漂わせ、「高く付くからね」と笑いながら私のお尻を叩いて帰られた。

 曰く今日は運転手付きだそうです。


「これでよしと……見れそうだよ。おいで」


 手招きされ、ソファに座る晴さんの前にお邪魔する。晴さんが私を後ろから抱きしめる、いつものスタイル。 

 互いの鼓動が互いに感じられる……私とあなたの特等席。


 映し出された画面には、とある音楽ホール。

 数人の小さな子どもたちが舞台へ上がると、一人の女の子に画面が拡大されていく。


「これ雫の小さい頃? ヤバいね……目茶苦茶可愛い……」


 二十年前ということは、三歳直前の私。

 記憶に無いけれど……リトミック(音楽教育)なのだろう。流れる音楽に合わせ、身体を動かし時には鈴やタンバリンを鳴らしている。

 楽しそうに表現しているのかと思えば急に不安げな顔になり、客席をキョロキョロと見つめ笑顔でカメラに向って手を振る私。


 傍から見れば可愛らしいのかもしれないが、恥ずかしさで耳まで赤くなっている感覚がする。

 横目で晴さんを見ると……頬を赤く染め、少し肩で呼吸をしている様に感じた。


「晴さん、どうかなさいまし……きゃっ!? は、晴さん……?」


 ソファに押し倒され、鼻先が触れ合う距離で見つめ合う。

 甘い吐息を纏わせながら、あなたは繰り返し動画を再生する。

 嫉妬深い私はその動作さえも妬いてしまい……あなたの服の袖を掴み、熱くなっていく顔を隠す様に目を瞑った。

 吐息と吐息が、交わっていく。


「こんなに小さくて可愛い子が…………ふふっ、随分イケないこと知っちゃったね」


「…………全部晴さんが教えてくれたんですよ?」


「ふふっ。私だって雫に沢山のこと、教わってるんだからね?」


 唇を重ね合わせ、甘く深く繋がるその時……あなたは幼い頃の私を見ては妖艶に微笑み、より深く絡み合った。


「……どうして動画を見ながら求めてくださるんですか?」


「至高のおかずと一緒にご飯を掻き込む的な?」


「そ、そう云うのを……えっち、って言うんですよ?」


「…………ふふっ、唆っちゃう。お腹減ってるから……もういいよね? いただきます──」


 どちらが主食なのかを聞こうと思ったけど、なんとなく理解して顔が赤くなり……それさえも御数にしたあなたは、美味しそうにご飯を掻き込んだ。

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