第169話 なりきりショート・ヤンキー編


 葵から薦められた不良漫画を読む木曜日の午後。最近のヤンキーは時を越えられるらしい。

 

「そういえば不良役はったこと無かったっけ」


「ふふっ、何を読まれてるんですか?」


「ヤンキーがいっぱい出てくる漫画。読んでみる?」


 ヤンキーという言葉を聞き、頭の上にはてなマークを浮かべている彼女。

 何をしても何もしなくても可愛い素敵な恋人。


「ふむふむ……蛮殻ばんからな方々が出てくるんですね。昔詩音ちゃんが荒れている時期がありまして、気弱な同級生にお金を集っていましたが……あれがヤンキー?なるものなのでしょうか?」

 

「ふふっ、まぁ近いって言えば近いのかな? せっかくだしなりきってみよっか。負けた方は……勝った方の妹分になる。どう? ワルい子になれるかにゃ?」 


「ワ、ワルには自信があります!!」 


 というわけでヤンキー対決の始まり。


 ヤンキー……あんまり怖がらせちゃうのも嫌だし、バランスが難しそうな役。

 暴力的なのは論外だし、どうしてもステレオタイプな感じになってしまうのは仕方が無い。

 適度なワル、適度なワル…………よし。


「アマヤ、購買行って焼きそばパン買ってこいや」


「ふぇっ!? や、焼きそばパンですか!?」


「四の五の言わず行って来いや」


「し、少々お待ちください……………………や、焼きそばパン売り切れてました……で、ですので代わりの物を買ってきました」


「いい心がけだなアマヤ。で、何買ってきた?」


「シベリアです」


「おう……渋いな……」


 ◇  ◇  ◇  ◇

 

 なんだかんだ彼女の領域に飲まれ締まらない結果に。それが嬉しく思ってしまう私も、相当締まりがないのだろう。

 さて、次は彼女の番。

 一体どんな姿を見せてくれるのかな?


「わ、私とってもワルなんです!!」


 あー、可愛い。耐えきれるかな……


「ふふっ、どんなワルなの?」


「先日スーパーで買い物をしている時、賞味期限を見て後ろの方から牛乳を取ってしまいました!! どうですか? とってもワルでしょう?」


 ワル自慢をしてドヤ顔をする彼女。

 確かに、悪魔的に可愛いとんでもないワルだ。


「で、ではヤンキー?になりますね…………や、やいやい!! お、お金を出しなさい!!」


 もう無理、好き。


「いいよ? 十万? 百万?」


「ふぇっ!? き、金額ではなくてですね、その、誠意と言いますか……」


「気持ちってこと? じゃあ……これでいい?」


「は、晴さんどうして服を脱いで……」


「私の誠意。ワルなんでしょ? もっとワルいこと……教えてよ」

 

 私には到底越えられそうにない程に愛しいワル。暫くは妹分として存分に彼女を味わった。


 そんな我が家のヤンキーは、今日も周囲を気にしながら牛乳を奥から取っている。

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