第156話 ぴぴぴのぴ
仕事を終え帰宅し玄関ドアを開けると、シューズボックスの上に置かれた二つの……ネックストラップ。
その中には紙が入っており、一つは“御主人様”。一つは“お嬢様”。
なんとなくお嬢様を選び首にぶら下げた。
ドアを開けると可愛らしい飾り付けがされたリビングと…………メイド服を着て私を出迎える真っ赤な顔をした彼女が目に映る。
「お、お帰りなさいませ! お嬢様!!」
…………何これ、滅茶苦茶可愛い。
何に影響されたのか誰の入れ知恵か……まぁ可愛過ぎるから今回は有り難いけど。
「お風呂になさいますか? お食事になさいますか?」
「ふふっ、もう一つ聞くんじゃないの?」
「……メ、メインディッシュは最後なんですよ?」
あー可愛い、好き。
ここ数日夜な夜な何かを作ってるのは知ってたけど、この服だったんだ。
コンセプトはメイドカフェかな?とにかく主従関係であることは間違いないから……
「じゃあつまみ食いくらいならいいんでしょ?」
「……す、少しだけですよ?」
いつものように私から少し屈むと、手のひらで押し返して指でバッテンを作る彼女。
「……私からして差し上げます」
背伸びをし浮く踵。
少しだけ握られた小さな拳が、愛しさを助長させる。正直もうこの可愛さに耐えられそうにない。
「で、では先にお夕飯にしましょうか。お嬢様、暫しお寛ぎください」
ソファへと案内されると、特製のメイド服を着せられたポンちゃんがなんとも言えない顔をして佇んでいた。
バルーンや花飾り、華やかに可愛らしく飾られた室内。ソファにはYESと書かれたクッションが置かれているけど、多分意味は分かっていないんだろう。
どんな顔で、どんな気持ちで準備したのか……想像するだけで、愛しい想いが溢れてくる。
「お待たせしました。ラ、ラブラブ特製オムライスです」
見た感じ普通に美味しそうなオムライス。
卵には何もかかっておらず……彼女を見ると、ケチャップを握りしめ何か呟いている。練習してるのかな……?頑張って、雫。
「お、美味しくなーれ、美味しくなーれ♪ ハートの頭にちょんちょんちょん♪」
ケチャップでハートを描き、その上に点を三つ。ハートの真ん中にはカタカナでスキと書かれている。
可愛さが私を追い越し、この辺りからついていけなくなってきた。
「ま、まだ終わりませんよ? これからもっと美味しくなる魔法をかけますね」
ケチャップを超えた赤面。
震える手でハートマークを作り、大きく深呼吸をした彼女はとびきりの魔法をくりだした。
「ラ、ラブラブパワーで美味しくなーれ、ぴぴぴのぴっ♪」
恥ずかしさの限界を超えているのか、彼女の中で今何が起きているのか彼女自身分かっていないようで、愛を注入した格好のまま固まっている。
やられている私もわけが分からない位なので、このラブラブパワーは本物らしい。
このままではお互い壊れてしまうので、固まったままの彼女を抱き抱えて寝室へ行く。
ベッドへと雪崩込み、覆いかぶさるように鼻先同士をつけた。
「オムライス冷めちゃうけど……いいよね? もう我慢出来ないから」
「だ、駄目です……今日は私がお嬢様にして差し上げる日なので……」
「私がしたいんだけど……メイドなら主人の言うことを聞かないとでしょ?」
「で、では……召し上がりますか?」
「ふふっ、うん。いただきます」
唇が触れ合う瞬間、彼女は手をハート型にし自分自身に魔法をかけた。
「…………美味しくなーれ、ぴぴぴのぴ」
それは、彼女がとびきり美味しくなる愛の魔法。
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