第143話 なりきりショート おバカップル編


「晴さん、おバカップルをご存知ですか?」


 自信満々、渾身のドヤ顔の彼女。

 可愛すぎるのでとりあえず聞いてみよう。


「ふふっ、教えてくれる?」


「先ずおバカップルの衣装ですが、これには決まりがあるそうです」


 あー、可愛い……

 

「お揃いの服は勿論、互いの服にはハートマークが半分ずつ印刷されているのです。これは二人並んだ時に、一つのハートになります。また、ハートの色は出来るだけ強い桃色が良いとされています」


 ……いったい誰の入れ知恵なんだろう。


「そして重要なのが呼び名です。可愛らしくかつ独自性を持たなければなりません。例えば……日向晴→ひなたはる→たるたる→海老フライ……などなど。このように、一見関係が無さそうで実は当人達にしか分からない呼び名が良いのです」


 我慢出来ないや……早く愛でたいなぁ……


「そして最後に言葉遣いです。適度に赤ちゃん言葉を入れることで、会話に愛が生まれるそうですよ? ではでは、私が作りましたこのハートシャツを着ていただけますか?」


「えっ!? 作ったの?」


「おバカップルはその……恋人の最上級の形なんです。なりたいんです、あなたと……最上級の恋人に……」


 こんなことを仕込んだ犯人を取っちめてやりたいけど、今は彼女を笑顔にさせたい。

 真っ白なシャツに腕を通す。

 胸元のハートマークの濃密さは、彼女の想いの濃さである。


「ふふっ、どう? 似合う?」


「ふぇぇ……晴さんは何を着てもお似合い……あ、あの……呼び方を変えてもいいですか?」


「どうぞ♪」


「では先程の続きで……海老フライ→シュリンプ→リンリンなんてどうでしょうか? リンリン♪ ふふっ、リンリンは私のことをなんて呼んでくれますか?」


「えっと……シャンシャンで……」


 最早意味がわからないけど、彼女改めリンリンが嬉しそうなので良しとしよう。

 まぁ……元々バカップル以上だと思ってるし。ふふっ、好きな気持ちは負けないんだから。


 ◇  ◇  ◇  ◇


「というわけで彩さんをお呼びしています。彩さん、私達は晴れておバカップルになりました。私はリンリン、晴さんはシャンシャンです!」


「なに? 漫才師でも目指してるの?」


「彩さんにはおバカップル検定をお願いします。こちらが項目です。該当すればチェックをして下さいね」


 何やら複数枚の紙を渡す彼女。

 コッソリ覗いてみると手書きで…………栞の字だなこれ。薬指につけた指輪の写真でもSNSにのせて困らせてやる。


「では始めますね…………」


 待てど喋らない彼女を見ると、顔を真っ赤にしながら口をパクパクしている。

 恥ずかしいなら止めればいいのにっていつも思うけど……そんな気持ちを毎回乗り越えて、沢山の愛を届けてくれる。

 よし、今回は私から……


「シャ、シャンシャン! えっと……き、今日はお外、ポカポカちゃんだね?」


 もう無理、死ぬ……


「凄い……あの晴姉が尊死してる……」


「きょ、今日はね、山形から早出しの桜桃が届いたから冷やしておいたんだよ? はい、あーん…………お、美味ちぃ?」

 

 この辺りから記憶がないけど……彩が言うには、可愛く健気に頑張る雫と、その度に何回も尊死してる私の対比が面白かったらしい。

 

 なんだか悔しかったので……指輪の写真をアップして、夜が明けてもシャンシャンにむしゃぶりついた。

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