第127話 幸せの花
年の瀬、彼女の実家から立派な餅つきセットが送られてきた。
せっかくなので母と彩、それに栞と葵も呼んで我家の庭で餅つき大会をしている。
「では二回目が蒸し上がったので、小突きお願いしますね」
「今度は晴姉の番だよ。これ、明日絶対に筋肉痛だよ」
この小突く作業が兎に角大変で……
力は要るし、早くしなきゃ餅米が固まっちゃうしで、冬なのに汗ばんでしまう。
「ふふっ、お疲れ様です。大分良さそうなので、お餅をついていきましょうか」
彼女は手でひらひらと風を送り、火照った顔を冷ましてくれる。
献身的なその仕草と作務衣の相乗効果で可愛さMAX。顔は火照っていく一方。
「ヒナァ、あとは私達に任せなさァィ」
「葵ちゃん、いきマース!」
来る前から既に酒臭かった栞。
運転手である筈の葵も米焼酎の瓶を片手に千鳥足で臼の前まで来た。
ふらふらと杵を持つと、栞は小声で一人ひとり違う名前を呟きながら憎しみたっぷりに餅を叩いている。
葵はそれを見て笑いながら返し手をやっているけれど、手につける筈のものは水ではなく米焼酎だ。
「二人共、はしゃぐのはいいんだけど……」
「何言ってんの? アンタの女優辞めたお祝いもこもってんのよ? 目出度いナァ!!」
「頑張ってきたヒナちゃんの幸せがこうして形になってるのを見ると、私達も嬉しいんだヨ? ヨイショー」
栞は兎も角、葵は普段しっかりしてる方だからこんなに乱れた姿は見たことがなくて……愛されてるなと、思わず笑ってしまった。
「ふふっ、随分お酒たっぷりなこれは伸餅には向きませんね。餡子ときな粉、それに大根おろしで食べましょうか」
手際良く小さな餅たちを作っていき、朝作っていた甘酒を皆に振舞う彼女。
自然と彼女の側には皆が集まり……幸せの花が、咲いている。
「彩さんは食べちゃダメですよ? お酒は二十歳になってからです」
「いーなー。早く大人になりたいや」
「ふふっ。これから先何十年もこうして共にするんですから……最後の十代、一緒に楽しみましょう?」
「するするっ! 私ね── 」
未来のことなんて誰にも分からない筈なのに……なのに、この幸せの花はいつまでも咲き続けることを私は知っている。
この花の名前を、私は知っている。
移ろいゆく季節と共に姿を変え、当たり前に側にいてくれる……一日一生。尊く咲き続ける、今という花が──
「晴姉、顔赤いけど酔ってんの?」
「晴、きな粉美味しいよ」
「ヒナぁ、酒どこだぁ酒ぇ……」
「ヒナちゃん、私と栞どっちがスキィ?」
──咲き誇る。
「日向さん、一緒に食べましょう♪」
「…………うん、食べる── 」
澄み切った師走の空気。煙突から出る燻された煙に、胸躍る。
柔らかくモチッとした弾力のある温かいものを抱き抱え、そのまま寝室へ向かい鍵を掛けた。
「日向さん……?」
「言ったでしょ? 食べるって」
「………………ふぇっ!!? で、ですが餅つきは……」
「餅つきって、違う意味もあるんだって。私が杵で、雫が臼。ふふっ、どこをぺったんぺったんすれば……いいのかな?」
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