第123話 甘々ショート タメ口編


「では日向さん、来週の予定は其のようになっていますので……日向さん? どうなさいましたか?」 


「ねぇ、今日は敬語辞めてみよっか」


「ど、どうしてですか!?」


「ふふっ、色んな雫が見たいから。日向さんって呼ぶのも禁止ね」


 美しい大きな瞳を少しだけ見開いて、一瞬固まりながら何かを考えた彼女だったが、眉毛をキリッとさせて小さく頷いた。

 既に可愛過ぎる。


「わ、分かった……よ? ひな……ひなちゃんはお昼御飯何がいいかな?」


 なにこの可愛い生き物は。

 自分で吹っ掛けた話なのに、少し後悔してしまう。

 この可愛さに私が耐えきれるはずない。


「うーん……雫は何食べたい?」


「わ、私? えっと……偶にはお外で何かお持ち帰りなんて如何かにゃ……?」


 隠し切れない彼女の丁寧さと、健気に奮闘している姿が愛しくて堪らない。

 今にも押し倒してしまいそうな気持ちを抑えて、お揃いのコートを羽織った。



 ◇  ◇  ◇  ◇ 



「ふぇぇ、寒いですねぇ…………寒いねぇ……」


 可愛過ぎるでしょ。

 おでこにキスをすると、嬉しそうな顔をして鼻先を擦り寄せてくる。もう保たないかも。


 少し歩くと、近くにあるキッチンカーから甘くていい匂いが漂ってきた。

 チラチラと私を見てくる彼女が愛しい。

 

「たい焼き屋かぁ……ふふっ、ピザとツナだって。美味しそうだね。これと普通のやつ買って、家で食べよっか?」


 見えない尻尾を振って喜ぶ彼女。

 大判ストールを巻き付けて壁代わりにし、冬天の下……妖艶に漏れる吐息を求め唇を重ね合う。

 

 ◇  ◇  ◇  ◇


 家路を辿る途中、我慢出来ずにつまみ食い。勿論たい焼きの話。

 

「わぁ、これめっちゃ餡が美味しいよ。雫も食べてみて」


「では…………ふぇぇ……本当、餡子さん美味しいね」


 口元に付けた餡と愛々しい微笑みに、理性が弾ける音がハッキリと聞こえた。

 幸いだったのは、我が家の近くだった事。少し強引に手を引く私に、彼女が口を開いた。


「ひ、ひなちゃん? どうしたの?」


「雫が悪いんだよ……可愛過ぎるから── 」


「ど、どういう……きゃっ!?」


 玄関ドアを開けると、彼女を抱き抱えそのまま寝室へ直行した。


「あ、あの……日向さん?」


「ダメ、まだ敬語は禁止。これが終わるまで……ね?」


「ひ、ひなちゃ── 」


 口に付いた餡も彼女も、いつもと少し違う味。

 甘い甘い、彼女の味。

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