第113話 二十四節気、霜降
「ふぅ……寒かった。風も吹いてるし、ちょっと外に出ただけでも冷えちゃうね」
可愛らしいサメの顔がフードになっている裏起毛のパーカーを着ながら、リビングで少し身震いする私。
庭の草木達も衣替えをして……私とは対照的に、大分サッパリとしてきた。
風で揺れる木々を見ていると、何故か寂しい気持ちにさせられる。
「今紅茶を淹れてますから……もう少し待っていて下さいね」
ゆったりとした口調。私を心の底から癒やしてくれる穏やかな波長。寒さよりも愛しさが勝り、強張る身体は自然と溶けていった。
いい匂いがする。
運ばれてきた紅茶の横には……黒糖?それに、ミルクが入った器も置いてある。
「本日の紅茶はアールグレイです」
「ふふっ、説明お願い出来ますか?」
「……アールグレイとは、茶葉にベルガモットの香りを着けた着香茶になります。アールグレイのアールは英語で伯爵。グレイは1830年頃英国で首相を務めたチャールズ・グレイから。つまり、グレイ伯爵という意味です。諸説ありますが……中国から献上された着香茶を気に入ったグレイ伯爵が英国で作らせ出来上がった品を、グレイ伯爵から因んでアールグレイと名付けたそうです」
相変わらず、素敵過ぎる恋人。彼女と一緒にいると、私までお淑やかになれる気がして……
こうやって、染められていくのだと感じている。
「そのままでも勿論美味しいのですが、黒糖とミルクを混ぜて召し上がって下さい。今日は二十四節気の一つ“霜降”です。露が霜に変わっていく……秋の深まりを感じさせる季節です。今日から立冬までの二週間で吹く北風を木枯らしと呼び……秋風蕭条な思いが強くなります。ですから甘くて── 」
遮るのではなく、彼女の言葉と重ねる。
ゆっくりと唇を離し、熱い紅茶に黒糖を少しずつ溶かしていく。
「このまま隣にいてよ。秋の暮も冬の朝も、雫がいてくれれば何にも怖くないから」
私の問に、優しくミルクを注ぎ答える彼女。一つのカップ、二人で飲む紅茶。
触れ合う肩、愛らしく微笑んでいる彼女がいてくれるから……景色は甘く、彩付いていく。
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