第104話 ハートマーク
仕事も講義も無い日。
今日は彼女が調べ物があると言ったので、図書館へ来ている。
「つまらないですよ……?」なんて言っていたけれど、彼女といてつまらないなんて感じた事は一度も無い。
せっかくなので、彼女が行ってみたかったという図書館へやってきた。
お洒落というよりかは厳かな建物で、そんな彼女らしさがとても愛しく思う。
◇ ◇ ◇ ◇
お目当ての資料が見つかり、机の上で作業をする。
少し肌寒い程冷房が効いた館内。
ピタリと寄り添うと、彼女は鞄からブランケットを取り出して互いの膝に掛けた。
私がプレゼントしたブランケット。タグにはマジックで “雫” と書いてあり、その文字に心まで温かくなる。
性格も仕草も、癖も表情も、全て好き。
「インターネットで調べたほうが早いんじゃない?」
「何回かインターネットを使って調べましたが……誤った情報が多かったのでやめました。私の調べ方に問題があるのだとは思いますが、私にはこういった古いやり方があっているのだと…………どうかしましたか?」
「んー…………好き」
「ふふっ、大好きですよ」
ブランケットの中で絡み合う指。
確認し合うように、何度も何度も絡ませる。
「片手塞がってるけど大変じゃない?」
「あなたが隣りにいて大変だなんて思ったことは一度もありませんから……」
分厚い資料に目を通しながら流れる言葉。無意識に出てくる本心が嬉しくて、幾度となく頬が緩んでしまう。
落ち着いた瞳で集中している彼女。
それを見守っている時間も好き。
静かな館内。触れ合う指先と温かなブランケット。時折捲られる頁の音が心地良くて、少しずつ夢の世界へ引っ張られていく。
彼女が書いているメモ用紙の隅に、コッソリとハートマークを描いた。
そんなことで満足してしまった私は完全に夢の世界へ。
気がつけば、一時間が経っていた。
「ご、ごめん。頑張ってる横で……」
「ふふっ。気持ちよさそうで……可愛らしかったですよ? 私も終わったので、お昼ご飯デートしませんか?」
「するする。雫と行きたいところがあったんだよね」
「では……えいっ」
膝掛けに使っていたブランケットを広げ、私達の頭を覆い隠すようにした彼女。
視界が暗くなると聴こえた、囁く愛の声。
「大好き。あなたと来れて幸せでした」
必要以上に熱くなる私の顔。
そんな頬に柔らかな感触がして、全てが彼女に奪われる。
「ふふっ、では行きましょう」
お互い真っ赤な顔。
そそくさと立った彼女は、机の上に置いたメモ用紙を忘れてしまうほど、平穏では無いのだろう。
ビッシリと書き込まれたメモ用紙。
隅にあるハートマークは赤く塗られていて、love youの文字が書き足されていた。
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