第83話 私を誰よりも愛してくれる恋人です


 ◇  ☂  ◇  ☂


 四月後半、漸く新年度の生活にも慣れてきました。

 早めに大学へ行き、いつものようにベンチに座っていると、朝から元気いっぱいの声と笑顔が訪れます。


「雫、おっはよー! 今日どっかでランチしよ? 私三限までだから、その後カフェね。で、カラオケ行こカラオケ」


 日向さんの妹御である彩さんは、晴れて新一年生として入学なされました。

 慕ってくださることが嬉しくて……それに、日向さんによく似た甘え方をされるのでつい私も甘くなってしまい、日向さんに注意される事が増えました。


「歌謡曲は苦手なので、カラオケはまだ行ったことがないんです。初めては日向さんと行くとお約束してますので、その後に私からお誘いしますね」


「はいはい、ラブラブで羨ましいわ」


 拗ねつつも受け入れてくれる彩さん。

 申し訳なくて俯向いていると、イヤホンを片方差し出してきた。


「私ね、今このアーティストにハマってるんだ。一緒に聞こ」


 曲が流れると、楽しそうに音楽にのる彩さん。

 カラオケは行けないけど……こうして、同じ音楽を楽しめる大切な時間。

 私も少しだけ真似をして音楽にのってみた。

  

「そういえば……彩さんのイヤホンは線がついているんですね。日向さんの持っているものは耳につけるだけの型ですが」


「なんかさ、曲聞いてるって感じがするし……それに、線で繋がってるから。音楽も雫も。だからこのイヤホンが好きなんだ」


 私には考えつかない、素敵な言葉。

 思わず頭を撫でると、嬉しそうに微笑んでくださった。


「せっかくだから晴姉に写真送ろっか。妬くだろうなぁ」


 寄り添って何枚か写真を撮る。

 可愛らしく加工して、写真に文字を添える彩さん。

 日向さんを煽るような文章で、思わず笑ってしまう。

 妬いてくださるだろうか……

 もしそうなら、嬉しいな。

 

 ◇  ◇  ◇  ◇



 お昼休みです。

 彩さんに誘われると思っていたので、お弁当を二つ持ってきて正解だった。


「んー、雫のお弁当メッチャ美味い。ナニコレ?」


「ふふっ、喜んでいただけて良かったです」


 口いっぱいに頬張る姿を見ると、姉妹なんだなと思い胸の奥が温かくなる。


 仲良く食べていると、見知らぬ人に声をかけられた。

 彩さんは可愛いから、多くの人を惹きつけてしまうのだろう。


 でも迷惑って仰っていたし、私が守らなければ。


「わ、私達は二人で食べてますので本日はご遠慮下さい」


 よし、これで大丈夫。

 日向さんにも彩さんを守るようにと頼まれているので、私がしっかりしないと。


「ふふっ、彩さんは人気者ですね」


「いや、多分さっきの私じゃなくて……」



 ◇  ☼  ◇  ☼



「って感じで雫モテモテなんだけど」


「へぇ……」


 今日は妹の彩が我が家に遊びに来ている。

 彼女はまだ大学にいるが、話したいことがあると彩が言っていたので水入らずのティータイム中だ。


「ま、私がいるから誰も近づけさせないけど……晴姉? どこ行くの?」


「……迎えに行ってくる」


「ホント、独占欲の塊だこと」



 ◇  ◇  ◇  ◇



 独占欲ね……

 当たり前だよ、私の雫なんだもの。


 正直、私以外と会話をして欲しくない。

 私以外に見せたくない。


 我儘だし大人気ないって分かっているけど……

 私はそんなに出来た人間じゃないから、雫を誘ってくる人達に腹が立つ。


 バイクに跨り大学の前で彼女を待っていると、多くの学生が行き交う中で彼女を見つけた。


 数回吹かすと、彼女がこちらに気がついた。

 一瞬目を丸くさせ、その後愛らしく微笑んでいる。

 

 学生達の注目を浴びたまま、彼女の元へ向かう。

 ヘルメットのシールドを上げ、私のモノだと宣言するようにキスをした。


「雫、帰るよ」


「ふぇ、ふぇぃ……」



 ◇  ◇  ◇  ◇


「晴姉さぁ……この前の事で雫、質問攻めで困ってたよ? あと腹立つから学校でイチャつかないでくれない?」


「……雫、なんて答えてた?」


「…………癪だから言わない」


「ふふっ。迎えに行ってくるよ」


 何となく想像出来てしまい、それが嬉しくて思わず笑ってしまう。

 でも……流石に迷惑だったかな。


 あれ以来変な虫は寄ってこないみたいだから良かったけど。


 

 この前の反省もあるし、彼女が大学から出てきたので軽く吹かす。

 私を見た途端、立ち止まって顔を赤くさせている。

 動かないので、思わず迎えに行く。


「雫、どうしたの? 帰ろう?」


 手を繋ぎバイクのある方へ向かうと、彼女は名残惜しそうに私を見つめ、口を開いた。


「あ、あの……今日は……しないんですか……?」


「…………ふふっ。いいの?」


「あなたにされて嫌なことなんて……一つもありませんから」


「もー……大好き♪」


 

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