第62話 繋がる無窮の愛
三寒四温、気をつけていたのに風邪をひいてしまった。
撮影は過密スケジュール。休んでなどいられないのに……
春休み中の彼女は付きっきりで看病してくれる。
甘えたくなる気持ちを堪えて、一人静に横になる。
風邪をうつす訳にはいかないもの。
中々寝付けずにいられなかったお昼頃、ドアをノックする音が聞こえた。
「失礼します。大丈夫ですか? 何か出来ることは……」
「大丈夫大丈夫。こんなの寝てればへっちゃらだから」
この声と顔を見ると、つい安心してしまう。
でも病は気からって言うし、もっと気を張って──
「冷たっ!!?」
彼女の手の平が、私の頬を包む。
火照った顔なのは分かるんだけど、それ以上に冷たい彼女の手。
冷たくて……優しくて、温かい。
そんな不思議な感覚に包まれる。
暫くすると彼女はバケツに入った水に手を浸けて、また私の頬を包んでくれた。
その繰り返し。
「私が熱を出した時、母がよくこうしてくれました」
冷たい水に漬けるせいか、彼女の手は真っ赤になっている。
それでも、優しく微笑んで私を見つめてくれる。
そんな姿に、張り詰めていた心が解けていく。
「母がよく言ってたんです。“こうやって雫の熱を吸い取ってるんだよ”って。今、本当の意味が分かった気がします」
「本当の意味……?」
「……心にこもっている熱を、吸い取ってるんです」
おでこ同士をつけ、蕩けてしまいそうな瞳で見つめ合う。
冷たい手の平と温かい彼女が心地よくて、心の中が穏やかになっていく。
「今だけは、何も考えずに休んで下さい。大丈夫ですから……ね?」
「……雫のことは考えててもいい?」
一瞬目を見開いた彼女は、その後すぐに優しく微笑み、私のおでこに口付けをした。
「ふふっ、いいですよ? 手を……繋ぎましょうか」
彼女の声を、夢見心地で聞く。
そしていつしか……本当の夢を見始めた。
【お母さん、ごめんなさい……】
【ふふっ、今雫の熱を吸い取ってあげるね】
【ふぇぇ……お母さんの手、冷たくて温かくて……気持ちいい】
【今は何も考えなくていいからね。ゆっくり休んでね】
【……お母さんのことは考えててもいい?】
【ふふっ、いいよ。手繋いでいようね】
◇ ◇ ◇ ◇
「おはようございます。具合はどうで……ふぇっ!?」
おはようの挨拶をするよりも前に、強く強く抱きしめた。
夢の話では終われない何かが、私の中に刻まれた。
見えないところで繋がっている事が嬉しくて、抑えきれない想いが溢れてくる。
胸の奥が灼けるように熱い。
「私の心の中、どうしようもない位熱いの。これ、吸い取ってくれる……?」
「…………はい。私の熱も……お願いしますね」
この熱は無窮に冷めることはないと知りながら、私達は互いを求め合う。
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