第39話 ポン助


 我が家の庭はかなり広い。

 木々が生い茂り、ちょっとした雑木林の様になっている。


 仕事が早く終わり家に着くと、庭から声が聞こえる。

 私の大好きな声。


 なにやらはしゃいでいるけれど……

 彩が来ているのかな?


 気付かれないように、庭へ向かう。


「ポン助、おいで!!」


 楽しそうに笑う彼女と、その周りを小さな生き物が楽しそうに走り回っている。


「雫、なにやってる…………キャーーーッ!!?」


「ふぇ?」


 ◇  ◇  ◇


 リビングには、いつも通り可愛い可愛い私の仔猫ちゃんが一匹。

 それから……


「雫、ソレはなに!?」


「ポン助です」


 うん、そういう意味じゃないよ? 

 でもポン助って事はコレって……


「狸……?」


「はい、狸のポン助です」


 どこからツッコんでいいのやら。

 そういえば少し前から庭でコソコソしてるなとは思ってたけど……


「逃しなさい」


「ど、どうしてですか!?」


「家では飼えません」


 こんな古臭い台詞を言う日が来るとは……

 よく彩が捨て猫を拾ってきて母に叱られていた事を思い出す。


 私も母も、生き物が苦手。

 

「ポ、ポン助は凄いんですよ!? ほらポン助、お手」


【キャンッ!!】


 見事にお手をする狸。

 2匹してドヤ顔で私を見つめてくる。


 狸ってあんな鳴き声なんだ……


「ポン助、おかわり」


【キャンッ!!】


 器用に逆の手でおかわりをする。

 彼女の仔猫のような瞳を見て、狸も同じような瞳で私を見つめてくる。


 ここで逃がせなんて言える程、私は出来た人間ではない。

 ただ、もう少しだけこの可愛い2匹を眺めていたいので少しだけ意地悪を言ってみる。


「私、アライグマ派なんだよね。アライグマだったらなぁ……」


「ポ、ポン助!! 手を洗いなさい!!」


 オロオロと困った顔で彼女を見つめる狸。

 それでも見様見真似で手を擦り合わせている。


 ……必死で彼女に応えようとしている狸は、私と雫の関係みたい。


「ど、どうですか? ほぼアライグマですよ!!」


 説明する彼女の隣で、手を擦り続けている狸。

 健気な姿に、つい心を打たれる。

 飼い主に似るって話は、間違いない。


「……ふふっ。いいよ、飼っても。その代わり清潔にさせるんだよ?」


「あ、ありがとうございます!! ポン助、一緒にいてもいいんだって!!」

 

 私に向かってヘコヘコとお辞儀をする狸。

 頭を撫でてあげると、嬉しそうな顔で手を擦り合わせていた。


「ふふっ、可愛いね」 


 なんて可愛がっていると、仔猫ちゃんが手に擦り寄ってくる。


「わ、私も可愛がってください……にゃ……」


 こんな彼女を見せてくれたのだから、幸運の狸なのかもしれない。


 新しい同居人は、私を見る度に手を擦り合わせている。

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