第31話 アナタのワタシさん


 今日は、いざという時の為に備えてある防災グッズを整理しています。

 食料品の期限をチェックしていると、手回し式のラジオが出てきた。

 懐中電灯にもなる優れ物。


 試しに回してみると、音が聞こえてくる。

 ラジオを聞くのは何年ぶりだろう。


 聞きながら整理をしていると、胸が高鳴っていく音が聞こえた。


 私に恋を教えてくれた声がする。


【では、次のメッセージですね。えーっと……エドモンド大谷さんから。こんにちは、私は── 】


 そういえば、ラジオ収録をしているって前に聞いた事がある。

 いつもとは違った、甘くて優しい声。

 可愛いなぁ……


 つい聴き入ってしまう。

 何気無い一言が温かいのは、日向さんの素敵な人柄が言葉に散りばめられているから。

 

【メッセージを読まれた方には番組から素敵な── 】


 メッセージ……

 大切なお仕事に干渉する事は避けてきたけれど、これなら……

 少しでも繋がりたいという我儘。

 だって好きだから。

 

 ……なんて、惚気ている間に番組は終わってしまった。

 急いでリビングへと向かう。 

 日向さんと共用で使うタブレット端末。

 慣れない操作に時間がかかる。


 えーっと……ひ、な、た……は、る


 指でスッと文字を入力する動作が苦手。

 なんとかラジオ番組のページを見つけた。


 ラジオ……ネーム?

 なんだろう……本名でいいのかな?

 うーん…………


 ◇  ◇  ◇

    

【次行きましょうか。えーっと………………ふふっ、ごめんなさい。これ読んでもいいですか? ラジオネーム、アナタのワタシさんから。 “いつもアナタの声を聞いてます。その声で、何度も勇気を貰いました。その声が、私を変えてくれました。私のような人は沢山居る筈ですので、私はその内の一人。大変なお仕事と存じます。どうか、ご自愛ください” …………私の仕事って、見えない誰かに届ける事が殆どで、今日みたいなラジオだと……声ですよね。どうやったら相手に伝わるのかな、とか色々考えているんですけど……こんなに素敵なメッセージを貰えると凄く嬉しい。ワタシもアナタに、大切なモノを頂いてますよ?いつもありがとう。……では次の── 】


「はい、これ番組特製のステッカー」


「な、生放送と言うやつではないのですか!?」


「ふふっ、凄く嬉しかったよ。また送ってくれる?」


 恥ずかしすぎたので俯きながら首を横に振る。


 それから2年間、計8枚ステッカーを貰った。

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