第30話 甘々ショート④
彼女は普段テレビを見る事はないけれど、私が出ている番組だけは必ず見ている。
数年前から流行っているフワフワしたかき氷。
番宣で出たバラエティ番組で食べたんだけど、その時の彼女の目は少女の様に輝いていた。
あまりにも可愛すぎてその時は見惚れてたけど、やっぱり食べさせてあげたい。
と言う訳で、休日に彼女を連れ出しかき氷専門店にやってきた。
「わぁ……沢山種類があるんですね……私が知ってるかき氷じゃない……」
無垢な彼女がいつも愛しい。
彼女の初めては全部私のモノ。
「日向さんはどれにしますか?」
「雫は? どれで悩んでるの?」
「このピスタチオというものが気になります。豆ですよね? どんな味なんだろう……それか、やはり苺味でしょうか……うーん……」
なかなか踏み出せない彼女を少しだけ後押しするのが私の役目。
その瞬間がいつも好きだ。
「じゃあさ、両方頼んで二人で食べようよ。ね?」
「い、いいんですか?」
◇
店内隅の席。
二人で仲良くかき氷をつつく。
彼女の顔は、どのかき氷よりもフワフワと溶けている。
「ふぇぇ……口で溶けちゃいますね。美味しい……」
「ふふっ、良かった」
好きだとか、愛してるって喉から溢れそうになるけれど、こうして二人でいられる時間がそんな言葉よりも大切だって思うから、彼女を見つめて満たされていた。
そんな彼女は、目を瞑り手が止まっている。
「どしたの?」
「……私は初めてが多いなと思っていまして。知らない事を……大切な人と知っていける喜びに感謝していました」
私の考えてる事なんて薄っぺらいって、いつも痛感させられる。
頭でゴチャゴチャと考えたフリをしているだけ。
「それから……」
「ん?」
「…………好きです」
私も好き、なんて言おうと思ったのに気がつけば彼女の口を塞いでいた。
今日の彼女は苺味。
恥ずかしさを紛らわす様に、ピスタチオのかき氷をつつく彼女。
「どんな味かにゃ?」
「……先程から日向さんの味しか感じられなくて……その……美味しいです……」
苺味、なんて事を考えてしまった自分が悔しかったので、人目も憚らずにもう一度キスをした。
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