第29話 甘々ショート③
今日は日向さんがお休みの日。
そんな日は一緒にゆっくりしたいのだけれど……
「ねぇ、今日は何しよっか」
「実は午前中までに大学へ提出するものがありまして……」
「私も行っていい? 一度見てみたかったし」
◇
事を済ませ、日向さんを案内している。
大学に日向さんがいるなんて、不思議な感覚。
「へー、広いなぁ……何あれ? お洒落な建物だね」
「ここは古い建物が多くて、有形文化財にもなってるんです。私なんて、似つかわしくない場所ですよね」
他の学生は、違和感なくこの街のこの場所に溶け込んでいる。
私は、いつまでたっても馴染む事が出来なくて孤独を感じていた。
「……ちょっとさ、そこに立ってみて」
言われた場所に立つ。
日向さんは真剣に、でも優しい顔で私を見つめている。
顔が熱くなっていく感覚がする。
「うん、似合ってるよ」
「ほ、本当ですか……?」
「似合ってるから── 」
そのままおでこにキスをされて、抱きしめられる。
見られてるとかそんな事よりも、嬉しさの方が勝っていて今は気にならない。
「これからここを通る度に思い出してね」
手を繋いで、構内の様々な場所を散歩した。
一つ一つの景色が、日向さんと紐付けされていく。
「私高卒だからさ、大学って憧れてるんだよね。勉強はキライだけど」
そう言って笑う日向さんは、テレビで見る顔とは違っていて……
恋人として、少しは隣を歩けている気がして嬉しくなる。
「可愛い顔してる。さては私の事考えてたにゃ?」
「……はい。でも…………」
「ん?」
「四六時中ですよ? 大好きな人ですから……」
この顔も、私だけに見せてくれる。
恥ずかしいけど、私を好いてくれている顔。
背伸びをして、おでこに口を付けた。
「こんな私を好きになって下さり、ありがとうございます」
「……うん。そんな雫だから好き」
ベンチに寄り添うように座る。
私も日向さんも、多分同じことを考えている。
「家……帰ろっか」
「そうですね。一緒にケーキ作りませんか?」
「……私は食べる専だから。ケーキも……恋人も、ね?」
「そっ、や、あっ……ふぇっ!?」
「ほら、行くよ。お腹減っちゃった」
どちらの方か……そう聞こうと思ったけど、恥ずかしすぎて止めた。
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