第28話 この恋の主役は私達
日曜日の昼下り、外は小雨模様。
ソファで後から抱きしめられながら、日向さんの出ている映画を二人で鑑賞しています。
恋愛映画というジャンルだそうで、文字通り、恋いしたう愛情の物語。
この頃は髪が短かった日向さん。
可愛すぎる……
「キスNGの女優に恋愛映画をやらせるって、無謀だよね。見てる人達もさ、今回こそはキスするのか? みたいな事で騒いでるみたい」
映画の中では、顔と顔がほぼ付いているくらいに近づいている。
相手の方次第では、付いてしまうのではないだろうか……
本当に……した事はないのかな……
本当に……私が初めて……なのかな……
自然と涙が流れてしまう。
日向さんに気づかれないようにしようと背筋を伸ばした時、後から強く抱きしめられた。
「今までの事をさ、振り返ってみてよ。私は……どんな感じだった?」
今までの……
そういえば、あの時日向さんはどこかぎこちなかった。
あの時も、顔が紅くなりながらも優しくしてくれた。
……思い出すだけで、顔が灼けてしまう。
「ね? 雫が全部初めて。分かったかにゃ?」
頷く事が精一杯。
幸せで息が詰まってしまいそう。
「ねぇ、勝負しない?」
「勝負……ですか?」
「今からこの映画で流れる台詞があるんだけど……その台詞を私が男役、雫が女役。本気で演技して、私が少しでも照れて顔に出たら私の負け。ほら、始まるよ」
事故で数年間、眠り続けていた男性。
付き合っていた女性は、見切りをつけ彼の元を去っていた。
それでも病床で目覚めぬ彼を励まし続けたのは、想いを伝えられずにいつも隣で応援し続けた、幼馴染みの健気な女性だった。
奇跡としか言えない、彼の目覚め。
目を開けたそこには、いつものように花の水を替え、カーテンを開ける彼女の姿が朝日で輝いていた。
感動的なお話。
ハンカチなくして見る事は出来ない。
【好きだ、ハルカ】
【えっ……?】
【好きだ】
【うん。私も……好きだよ】
と、言う訳でこれを私達でやるそうです。
日向さんが目を瞑りため息をつくと、雰囲気が一変する。
これが女優の日向さん……
「好きだ、雫」
「ふぇっ!?」
か、格好良い…………
もう既に照れまくってしまってる。
直視出来ないよ……
「好きだ」
鼻先が付くほどに顔が近い。
キス……したいな……
思わず口づけをしてしまう。
まるで物語の主役になってしまったような、不思議な感覚。
なりきると、自然に言葉が出てくる。
「うん……私も。好き……だよ?」
言い終わると同時に、ソファへと押し倒される。
深くて長いキス。
どれくらいしただろうか。
雨間は、私達を二人だけの世界へと連れて行く。
「可愛すぎでしょ」
この顔は………
「私の……勝ちですね」
「……うん、負けた」
今日は梅雨寒。
大好きな人の肌が、いつも以上に温かく感じた。
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