第25話 雫ちゃんご来訪①


 我が日向家は3人家族である。

 母と娘二人。

 父親は、妹が産まれる前に他の女性と共に去っていった。


 初恋の相手である彼女は、私が招き入れた初めての人。

 彼女は特別な人だから。


「は、はじめまして!! 雨谷雫と申しましゅ!!」


 張り切って挨拶をしたけれど、恐らくは初めてではないし、大事な所で噛んでいる。

 下げた頭は上がらずに、紅く染まった耳が彼女の状態を示している。


 何をしても愛しくて可愛い。

 母が居なかったら、壊れるほど抱きしめていたと思う。


 初めて会った感じではなかったけれど、彼女の持っている紙袋で理解した。

 

 母が勤めている店に買いに行ったからだ。

 朝テレビで特集をされていて、私はそれを見て今日ここに連れてこようと思ったし、それを見て彼女はわざわざ遠い横浜まで買いに行った。

 

 不思議な縁を感じているのは私だけでは無いようで、母が優しく語りかけている。


「ふふっ、聞いてた通りの……可愛い子だね。そんなに固くならないでね? 今準備しちゃうから……晴、案内してあげて」

 

 恥ずかしくて顔をあげることが出来ない彼女の手を優しく引いて、私の部屋まで案内した。

 

    ◇


「ここは……もしかして日向さんのお部屋ですか?」


「うん。適当に寛いでて」


 キョロキョロと部屋を見る彼女。

 まるで遊園地に来た子供のように、目を輝かせている。

 時折顔が紅くなっているのは何故だろうか……


「そんなに珍しいかにゃ?」


「……日向さんが過ごした空間ですので。私の知らない日向さんがここにいて……この椅子に座って、どんな事を考えてたんだろう……このカレンダーをめくる時、外の天気はどうだったのかな……なんて、私と出会う前の日向さんを思い浮かべると、少しだけ日向さんに近づけた気がして……胸の奥が疼いてました」


 澄み切った心から流れる言葉は、滞り無く私の中へと染み渡る。

 一つ一つが、私への想いで溢れている。


「……その時何を考えてたかはもう分からないけど……今この椅子を見たら、私は雫の事を思い出すよ。そうやって……私の思い出は全部雫で埋め尽くされてくんだね」


 恥ずかしそうに指同士をくるくると回している彼女を見て、思わずベッドに押し倒した。

 見下ろすこの景色は、私だけのモノだ。

 

「さて問題です。私は今何を考えているでしょう?」


「……夕飯の事ですか?」


「……正解って言ったら?」


「…………嫌です。私が……その…………」


 尻窄みになっていく口を塞ぎ、強く抱きしめた。


「いつだって、雫が一番だよ」


 なんて、目の前の事にお熱になっているから、階段を駆け上がる足音に気が付かなかった。


「晴姉!! イケメン俳優連れてきたんでしょ!? 見せて見せて!!」


「あー…………空気読んで?」


 見下ろすと、紅く染まった彼女は涙目で縮こまっていた。

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