第10話 チョコレートよりも甘いモノ


 私雨谷雫20歳、晴れて日向さんと恋人になれました。

 両想いでも嬉しかったのに、恋人同士なんて……

 嬉しすぎて、幸せすぎて、その日の夜はなかなか寝付けなかった。

 

 日向さんの部屋から見る夜景。

 華やかで、眩しすぎて、私なんかには似つかない。


「眠れないの?」


「日向さん……その……興奮してしまいまして」


「……ねぇ、コーヒーでも飲もっか。ちょっと待ってて」


 なんだか嬉しそうにお湯を沸かしてくれている。

 その顔に、私も嬉しくなる。


 月曜日の真夜中、動き続ける大都会。

 非日常感が心を躍らせる。


 なんて、らしくない事を少しだけ考えてみて苦笑いしてしまう。


「ほら、コーヒーだよ。結構イイヤツ貰ってたんだよね」


「いただきます…………わぁ………………」


「どう?美味しいでしょ?」


「…………に、にがぃぃ…………」


 大都会もコーヒーも、私には背伸びしても届かない。

 日向さんがお砂糖とミルクを入れてくれて、ようやく飲めるようになった。


「ごめんなさい……お子様ですね、私は……」


「ううん、最初に聞かなかった私が悪い。ごめんね、雫」


 お口直しのチョコレートはいつもより甘く感じた。

 でもそれはコーヒーを飲んだからだけではない。


「同じものが飲みたかったんです。その……こ、恋人ですから……」


 恥ずかしすぎて顔から火が出そう。

 でも、嬉しくてつい口にしてしまう。


「あーヤバい……なんでそんなに可愛いの?」


「か、可愛くありません…………けど……」


「けど?」


「日向さんが一緒にいて下さると……少しだけ……少しだけ女の子になれる気がするんです」


「……じゃあこれから先もずっと女の子でいられるね」


「えっ?」


 私に覆いかぶさる形で、ソファの上に倒される。

 鼻と鼻がくっつきそうな位顔が近い。


「日向さん……?」


「……照れて目を逸らした方の負けね」


 そんな事を言われる前から照れている。

 いつ見ても可愛い。

 見ているだけで、胸の奥が暖かくなる。   

 どうして私の事を、なんていつも思うけど……

 幸せな事なのだから、それでいい。

 心の中も頭の中も、日向さんへの想いが湧き出てくる。

 許容範囲を超えた想いは、行き場をなくし口から自然と出てきてしまう。

 それは、私には止められない。


「…………好き」


 その言葉を聞いた瞬間、日向さんの顔が赤くなって……

 そのまま少しだけ、目を逸らした。


「……私の勝ちですね」


「…………うん、負けでいいや。だって……」


 チョコレートを一欠口に含んで、そのまま私に口渡しをしてくれた。

 唐突な出来事で、頭が追いつかない。


「だって、こんなに甘いんだもん」


「…………」


「おーい、雫?大丈夫?」


「……ふぇっ!?す、すみません…………あ、あの、確認ですけど日向さんの──」


「ストップ!!恥ずかしいから言わないで。私達……恋人なんだから、ね?」


 その響きと事実が何よりも嬉しくて、思わず抱きついてしまう。


「あ、あの……その……こんな私ですけど……精一杯頑張りますので…………宜しくお願いします」


「ふふっ、これからも宜しくね。雫♪」


 恋人同士でしたキスは、甘くて優しいチョコレートの味がした。

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