第8話 スイカズラの花言葉
何ヶ月ぶりだろう。
私は今テレビを見ている。
内容はおまちで食べ歩きをしているもので、偶然にも日向さんが映っている。
テレビで見ても可愛いなぁ……
「お、私出てるじゃん。どう?テレビの私は」
「か、可愛いです。その……可愛いです」
「もー、2回言ってるよ?でもありがと」
大きなソファ、私の後ろに日向さんが入り込んできてそのまま抱きしめられる。
抱き枕のように足も絡まっている。
柔らかくていい匂い。
「……日向さんはいつもこうして大勢の人に見られているんですね。凄いなぁ……」
「作り物だよ、これは。リアクションも台詞も、全部台本通り。作られた日向晴を演じて……いつしか私も本当の自分が分からなくなってね……最近まで見失ってたんだ」
「じゃあ今は……見つかったんですか?」
「うん。雫のおかげ」
私の髪を指でくるくるしている。
それがなんだか心地よくて、つい指へと顔を擦り寄せてしまった。
「ご、ごめんなさい。私……」
「なんで?可愛いし嬉しいよ。私の前では……私だけには甘えてよ」
日向さんの指はどんどん私の顔へと近づいていき、私の唇へと辿り着いた。
「全部……私のモノだから。ね?」
言葉の真意は分からなかったけど、ただただ単純に考えてしまうと心の中が爆発してしまいそうだった。
頷くことしか出来なくて、そのまま俯いてしまう。
「このままずっとこの時間が続けばいいのにね。少しでも離れるのがイヤだな……」
「……」
なんて言ったらいいのか分からなかった。
でも、日向さんが悲しい顔をするのは嫌だから、肩のあたりに顔を擦り寄せた。
少しでも、日向さんが喜んでくれるなら……
日向さんの顔が私の横に来て、自然と目が合い、自然とキスをした。
「ありがと。私の事、考えてくれたんでしょ?」
「やっ、その……はい……」
「大好きだよ。ねぇ、一緒にお風呂入らない?」
「ふぇっ!?」
◇
「雫、これじゃ暗くて何にも見えないよ?」
「い、いいんです!お見せできる代物ではないので……」
電気を全て消した状態ならいいという条件で、一緒に入ることにした。
それでも恥ずかし過ぎて、既にのぼせそうである。
「はー、気持ちいいね。いつもシャワーだけだからなぁ……」
「お風呂はお好きではないんですか?」
「好きだよ。でもね、一人でこの広い部屋に帰ってきて一人でこのバスルームに入ると……寂しくて。ゆっくりした分だけ、色々と考えちゃう時間が増えるから」
顔は見えないけど、声色がいつもと少しだけ違った。
何かに怯えているような……
「で、でも……今は一人じゃないですよ。だから……その……」
「ふふっ、ありがと。雫、そこにボタンあるでしょ?押してみて」
小さな赤い光が点滅している。
そこを押すと浴槽から泡が出て、薄っすらとライトアップされ始めた。
「わぁ……綺麗………………!?み、見えてます!!?」
「……雫、こっちにおいで」
「やっ、でも……」
たじろいでいると、日向さんから抱きしめられる。
隔たりないそれは、暖かくて柔らかい。
「ひ、日向さん……?」
「どこにもいかないで。ずっと一緒にいて」
今にも消えてしまいそうな声。
強く抱きしめるのは……不安だから……?
理由は分からないけど、何かしてあげたい。
だって……好きだから。
「私の前では……甘えて下さい。私は……」
日向さんの手をとって、私の唇へとつける。
「私は全部……日向さんのモノですから。」
…………私、今凄い事言ったよね?
あぁ、穴があったら入りたい。
「そ、そのですね……差し出がましい事を言っておいてあれなんですが………………日向さん?」
「もう少しこのままでいさせて。お願い」
その言葉が、胸に突き刺さる。
少し弱気になった日向さんが、とても愛しい。
「……大丈夫ですよ。大丈夫ですから」
優しく背中を擦る。
時間の流れは緩やかで、まるで日向さんと一つになっている様な感覚。
頭がボーッとする、なんて思っていたら目の前が暗くなって、気が付くとまたベッドの上にいた。
「雫、大丈夫?ノボせちゃったよね」
「ごめんなさい……駄目ですね、私は……」
俯くと、知らない服を着ている私が目に入った。
この服はなんだろう……
「それ、私の寝間着。下着は今洗って乾燥機にかけてるよ。ふふっ、この前のお返し」
「…………っ!?み、見ました!!?見ましたよね!!??」
「……ナイショ♪」
死ぬ程恥ずかしい気持ちは日向さんといるからで、この輝くような笑顔は私をからかっているからで……
どちらも、二人一緒じゃないと起こらない事。
この人が笑顔でいてくれるなら、私は……
「ねぇ、雫の昔話教えてよ」
「昔話……ですか?そうですね…………猪に追いかけられた話……それか庭にいたカモシカが……あっ、納屋に出た熊の話とかどうでしょうか?」
「アッハッハ!もー……1から聞かせて?もっと……雫のこと知りたいな」
日向さんと過ごす初めての夜は、甘くて甘くて私なんかじゃ胸焼けしてしまう程。
合間合間の優しい口付けが、私の思考を溶かしていく。
好き、以上の何かが私の中で生まれている。
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