第2話 恋の匂いはあなたの匂い
ピロリン♪
【今日寒いよねー(;´∀`)今から大学?】
【今支度をしています。寒いのは苦手です。夏の方が好きなんですが、日向さんはどうですか?】
https://www.pixiv.net/artworks/90295422
あれから日向さんとメールでやり取りをしている。
パソコンとかでしか出来ないと思ってたけど、私の携帯電話でも出来るなんて……
文字を入力するのに時間がかかってしまう。
失礼な事を送ってないだろうか。
この顔みたいなやつなんだろう。可愛い……
ピロリン♪
【春派!!あ、でも秋も好きかな。あれからお父さんどうだった?(´ε`;)】
【春も秋も良いですね。一日一回だった電話が朝晩の二回になりました】
何をしてても、ついメールを待ってしまう。
音が鳴るたびに、心が躍る。
みんなスマホをずっと見ているけど、こんな気持ちなのだろうか。
ピロリン♪
【ヤバいね(;´д`)急だけど今日の夕方とかって空いてる?時間が取れそうだから遊ばない?】
わー……どうしよう。
日向さんからお誘いだなんて……
顔がニヤけてしまう。
上京して2年、ようやく友達と遊べるなんて……幸せすぎる。
【是非お願いします。場所はどうしますか?】
ピロリン♪
【雫のアパートに行くよ!また連絡するね(`・ω・´)ゞ】
◇
講義が終わった後、急いで商店街の陶磁器店に寄る。
本当はもっとお洒落なお店で買いたいんだけど、私には到底縁がなさそうだし……
日向さん用の食器類。
誰かの為に買うなんて久しぶり。
もっと可愛い方が良いのかなぁ……
ピロリン♪
【16時には着けそうだにゃ!(ΦωΦ)】
語尾ににゃを付けてる……可愛いなぁ。
私も真似したら可愛くなるのかな……?
【にゃんだか可愛いですね。にゃんてまねしてみてますにゃ───
は、恥ずかしい……
っていうか違うよね!?
可愛い人の真似しても可愛くなれる訳じゃないよ!?
勘違いするな雫、身を弁えろ。
【段々と暗くなりますし、気をつけて来て下さい。お待ちしてます】
うんうん、こんな感じ。
雫、あなたはこんなもんだよ。
急いでアパートに戻りお出迎えの準備。
緊張するなぁ……世間の20歳はどんな事をして遊んでいるのだろう。
私の部屋にはテレビは無いし、遊ぶ物も無い。
もしかしてこれはピンチなんじゃ!?
ピンポーン♪
なんて考えている間に日向さんがやってきた。
「オーッス!寒いねー」
今日の日向さんも、なんて言えばいいのかな……可愛い。
私には縁のないような服を着こなして、キラキラと輝いて見える。
「ん?どしたの?」
「あっ、その、えっと…………いらっ……しゃい」
「……うん、お邪魔していい?」
「どうぞどうぞ!何も無いんですけど……」
日向さん、いい匂いがする……
あれ?私は変態なのかな?
「ホント綺麗な部屋だよね。私は片付け苦手だから……雫は良く出来た子だね」
「そ、そんな事ないですよ。何もないだけですし……その、片付けくらいしかする事がないので」
「……私がテレビ買ってあげよっか?スマホも」
「えっ!?で、でも……私にはこれくらいの生活が似合ってますから」
大学に通わせてもらっているだけでありがたいから、これ以上は望めない。
最小限の生活で過ごす事が義務だと思う。
「雫ってさ、スマホがどんなものなのか知ってる?」
「えっと……なんとなく。調べ物とか出来るんですよね?」
「これとかさ、凄い便利だよ?ホラ」
ワンルームの狭いアパートだから、ベッドをソファ代わりにしているのだけれど、私の隣に日向さんが座る。
わー……近いなぁ……
「ゲームとかも出来るし、これなんかメールよりも早く連絡出来るよ。このスタンプなんか可愛いよね。このアプリは─── 」
正直話の内容が私にはさっぱり分からなかった。
でもこの日私は初めてスマホを欲しいと思った。
日向さんが必死に説明してくれて、それに応えたいという思いもあるし、共有した何かが欲しかったから。
「このゲームさ、一つのスマホで一緒に出来るんだ。ちょっとやってみようよ」
双六のようなゲーム。
可愛らしいキャラクター達を化身にして助けたり邪魔したりしてゴールを目指す。
一つのスマホに二人が集中するから、自然と距離が近くなる。
綺麗な横顔……
「ん?何か気になる?」
「やっ、そのっ……き、綺麗な顔だなと思いまして……私なんかとは大違いですね」
「……感覚なんて人それぞれなんだろうけどさ、私は雫の顔好きだよ。それじゃ駄目?」
「駄目といいますか、その……えっと……」
日向さんがどんどん顔を近づけてくる。
わー……
「私達……友達でしょ?卑下しないで。いい?」
「ぜっ……善処します……」
「あははっ……もー、なにそれ?可愛いよ、雫は。少なくとも私はそう思ってる。ね?」
可愛いなんて言われた事が無かった。
慣れない言葉と慣れない気持ちでどうにかなってしまいそうだった。
「で、スマホ欲しくなったかにゃ?」
「す、少しだけ……」
スマホの事よりも、日向さんの語尾が可愛くてそれどころではない。
勿論、持っていて損は無いのだろう。
今だって便利だなと思ったし、ゲームも楽しかった。
でも……
「……隣に日向さんがいるから、触れてて楽しかったんです。私が一人で持っていても、それは何か違うのかなって……勧めて貰っておいてごめんなさい」
「……私さ、こう見えて社会人なんだ。ちょっと特殊で不規則な仕事なんだけど……なるべく時間作ってこの部屋に来るよ。その……雫が良ければなんだけど……」
「いっ、いいんですか!?えー嬉しい……あ、そうだ。さっき日向さん用に食器類買ったんです。せ、せっかくなので私もお揃いで買わせて貰ったんですけど……その、嫌では無かったでしょうか……」
「……ありがと。雫のそういう所大好き。このままここに暮らしちゃおっかなぁ」
どうしてだろう。
顔が熱くてたまらない。
熱でもあるのだろうか……
「雫?大丈夫……?」
「あ、あまり大丈夫ではないかもしれません……その…………一緒にいてくれますか……?」
どうしてこんな事を口走ってしまったのか。
メールと違って、言葉は一度発してしまうと取り返しがつかない。
怖くて目を瞑ってしまう。
おでこに暖かくて柔らかい感触がした。
日向さんの甘くて優しい匂いが駆け巡る。
目を開けると顔を赤らめた日向さんがいて、その時私は自覚した。
私は彼女に、恋をしている。
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