人気女優の恋人は女子大生

@pu8

第1話 お酒も恋も20歳から


 私の名前は雨谷雫あまやしずく

 田舎から上京して2年目、東京のおまちまで電車で30分程の所に住んでいる女子大生。

 講義が終わり、1人ケーキ屋さんへと寄る。

 今日は私の20歳の誕生日。自分の為にケーキを……なんて、考えるだけで虚しくなってきた。


 商店街の裏通り、居酒屋が並ぶこの道で人々が何かを避けながら歩いていた。

 立ち止まって見ちゃうのは田舎者の癖で、都会の人達の無関心さにはいつも驚かされる。


 帽子をかぶった女性が寝ゲロをしながら倒れていた。隣には缶チューハイの空き缶が転がっている。

 うめき声が聞こえるから意識はあるみたい。  

 駆け寄って声をかける。


「あ、あの……大丈夫ですか?」


「っ……だいじょゲゲロォブハァッッ!!!」


 追いゲロの直撃。

 周りの人達はより一層距離を取り始めた。


「ご、ごめん……タクシー……呼んでくれる?」


 この状態でタクシーに乗せても良いのだろうか。

 悩んだ末、私のアパートまで彼女を連れて行った。



    ◇



「……あれ?ここどこ?イテテ……頭がガンガンする……」


「あ!起きました?具合はどうですか?」


「………………誰っ!?あれ?私の服じゃない…………あ、あんたもしかして…………」


 縮こまり壁際へと後退り。

 多分私が何かしたんだと勘違いしてる。


「あなたが道で倒れてたので……服は今コインランドリーで乾かしてます。あと……その、ゲロがかかってたから身体を洗わせてもらいました……気に触ったならごめんなさい」


「…………マジ?」


 状況を理解して少しずつ落ち着いてきた彼女は、バツの悪そうな顔をして俯いている。


「身体……大丈夫ですか?」


「頭が痛い。それに……」


 お腹がぐるぐると鳴っている。

 あれだけ吐きちらしたのだから、お腹の中は空っぽなんだろう。


「ちょうどお粥作ってたんです。お腹にも優しいと思うから……」 


「え?いいの?」


 目を輝かせて見つめてくる。

 ちゃんと顔を見てなかったけど、凄く綺麗な人。

 都会の人は可愛いなって思ってたけど、私が出会った中で一番可愛い。

 そんな彼女に見つめられ、少し照れてしまう。


「……どしたの?」


「な、な、なんでもないです!出来たので食べて下さい……」


 誰かを部屋に呼ぶなんて事も無かったから、私が使っている百均で買ったお椀。

 私にはお似合いだけど、彼女には失礼だったかもしれない。


「いただきまーす…………美味しい。えっ?なんでこんなに美味しいの?」


「……ふふっ、良かった。お新香も切ったので食べられそうだったらどうぞ」


 勢いよくお新香とお粥を頬張る。

 私の作ったもので喜んで貰えたことが凄く嬉しい。

 一人暮らしを始めてからこんな気持ちになったのは初めて。


「…………助けてくれてありがとう。出来たら他の人には言わないで欲しいんだけど……」


「他の人……誰にも言いませんよ?」


 ホッとしたような顔で微笑む彼女。

 可愛い……


「……あれ?この部屋テレビないの?」


「持ってません。父がそんなものいらないって。本当は見たいんですけどね」


 ここ最近でテレビを見たのは近所の中華料理屋。

 確か競馬を見た気がする。


「マジか……いや、でも今スマホがあるからまぁ何とかなる……か?」


「スマホも持ってませんよ。パカパカする携帯電話しか持ってません。恥ずかしくて大学じゃ使えなくて……未だに家族以外と電話した事ないんです」


 父がそんなもの必要ないと言って高校まで携帯電話すら無かった。

 それでも一人暮らしとなると心配らしく、このパカパカする携帯電話を渡してくれた。


「ガラケーなんて初めて見たわ…………あれ?じゃあもしかして私の事知らない?」


「え?今日初めて会いましたよね?」


「化石みたいな人だな……あ、電話鳴ってるよ」


 父からの着信。

 一日一回は掛かってくる。


「もしもし……うん…………うん、大丈「ヘッックション!!!!あ、ごめん」


「えっ!?あっ、その……えっと……と、友達!!そう、そう…………お、男!!?違うよ女の子だよ…………代われ!?」


 困った顔でオロオロしていると、彼女は手を差し出してきた。


「いいよ、代わるよ。もしもーし……誰って……日向晴だけど…………いや、嘘じゃないし。っていうかオッサン、娘にテレビとスマホくらい買ってやれよ……………………は!?……………なんだよそれ。……いいよ、私が面倒見るよ。それなら文句ないでしょ?じゃ、そういう事で」


 ど、どうしよう……

 お父さん絶対に怒ってるよぉ……


「……ったく。あ、ごめん。お父さんガチギレしてたよ」


「ぇーん……どうしよう……掛け直さないと─── 」


 ボタンを押す手を拒む彼女の指。

 爪先までキラキラとしていて、私とは大違い。

 恥ずかしくなってしまい、手を隠してしまう。


「……何してんの?」


「…………その、日向さん?は凄く綺麗で可愛くて、都会の子って感じが凄くしてて……私なんか芋くさいなって思ったら、急に恥ずかしくなっちゃって…………」


 どうしよう、泣いちゃいそう。

 っていうか泣いてる。


「……名前、なんて言うの?」


「え?……雨谷……雫です」


「私は日向晴ひなたはる。あのさ、恩返しもしたいし……だからさ……その、私と……友達になってくれる?」


「と、友達…………なりますなります!!えー、嬉しい……こっちで友達なんて初めて」


「……私なんかよりよっぽど可愛いよ」


「……?」


「そういえばその箱なに?」


「これは……実は今日誕生日でして……一人でお祝いしようかなーなんて……あははっ……」


 言ってて虚しい。

 すると日向さんが箱からケーキを取り出し、蝋燭を立ててくれた。


「私がいるよ。電気消すね……ハッピバースデー♪」


 定番の歌でお祝いされる。

 歌声も綺麗で……まるで天使みたい。


「ほら、消して消して」


 照れながらも火を消す。

 こっちにきて色々あったけど、今日が一番幸せな気がする。

 思わず涙が溢れる。


「ご、ごめんなさい……まさか誰かに祝って貰えるなんて思わなかったので……友達っていいですね」


「…………あ、あのさ」


「……?」


「今日……私も誕生日…………なんだよね。20歳だから記念にお酒を飲んだんだけど……いやー、私には合わなかったみたい」


「……じゃあ火つけますね。今度は日向さんの番ですよ?」


 下手なりに歌ってみた。

 たまたま出会って、同じ誕生日で同い年……

 なんだか不思議な感覚。


「……雫に会えて良かった。今度遊びに来ても良い?」


「ぜ、是非!何もない部屋ですけど……」


「あははっ。スマホ無いんだよね?メアド教えてよ」


「メア……ド?」


「嘘でしょ!?」


 雨谷雫20歳、上京して初めて友達が出来ました。

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