夢次（むじ）　護（まもる）

　もう学校に着いた。芽衣と話していると本当に時間が早く感じる。やはり彼女が幸せを運んできてくれる天使だからだろうか。いや、もはや芽衣が幸せを生み出してくれている。この場合は…………女神かな……？

自分の席の横にバックをかける。芽衣と離れているのが悲しい。授業中に彼女を守ることができない。まあ、もしものことがないように常に警戒してるけど。

「よお、護！おはよう！」

「おはよう」

　こいつの名前は隅田（すだ）　修斗（しゅうと）。見るからに陽の者で僕には関わりの無さそうな感じだが友達だ。隣の席でグループ活動で一緒になってから、話しかけてくれるようになった。本当にありがたい。特に体育の教師がよく使用してくる地獄の号令『好きなやつと組め』のときにそのありがたさをひしひしと感じる。全国の教師には引き取られるときの罪悪感と気まずさを知ってほしい。あの制度無くしたい。まじで。

「護〜今日も愛垣と一緒に来たのか？いつも仲良いよな。付き合ってるんだろ？羨ましいなこいつ！」

「そういうのじゃないって」

「そうかーまだ付き合ってないのか。相談あるならいつでも乗るぞ？ちなみに今すぐ告白することをおすすめする」

「だから違うってば」

腕を肩にまわして、からかうような口調で言ってくる。いつも否定してるのにやめない。僕の力では芽衣を幸せにしてあげられないんだって。彼女とは釣り合わないんだって。その「俺は分かってるからな」っていう目をやめろ！

「付き合ったら変に隠さずに言えよ。お前と愛垣のペアってまあまあ有名だからな。無駄だぞ」

「芽衣が人気なのは知ってるけど……なんで僕まで？」

「お前いつも愛垣と楽しそうに喋りながら登下校してるし、学校内でも一緒にいること多いだろ？逆になんで目立たないと思うんだよ」

「…………そんなに有名？」

「別の学年のやつが知っていてもおかしくないくらいはな。たぶん愛垣のファンクラブの中ではお前粛正対象だぞー、背後に気を付けろー」

「ファンクラブ……？なにそれ？」

「ん？確かこの頃できたんだよ。ちょっと話してるの聞いた。まあ、愛垣は運動神経も頭もいいから。ファンクラブって本当にできるもんなんだな〜リアルであるとは思ってなかったわ」

　しまった。今までそういう動きがあったら止めてきたのに、気づかなかった。どうせファンクラブとかいう奴らは芽衣に気持ち悪い目線と劣情を向けるゴミどもの集まりだろう。集団でいると気が大きくなって行動に出るかもしれない。芽衣には絶対に指一本触らせない。

「そのメンバー、できればリーダー的な人知ってる？」

「お前入る気か？ごめんな、俺は少し話を耳に挟んだだけだから知らん。そのメンバーを知ってる友達いたら紹介してやるけど……たぶんいないと思うぞ」

「そうか」

「あ、でもお前愛垣とずっと一緒にいる男って認識だろうし、あっちから話しかけてくれるんじゃね？」

「なるほど。確かにそうかもな。ありがとう」

「お前はそういう集団とか苦手だと思ってたから、意外だわ」

「違う違う、入る気はない。ちょっと気になっただけ」

「そうなのか？ってもうそろそろ席戻んないとホームルーム始まる。じゃ」

「おう」

少し芽衣の周りへの警戒を強めないといけないようだ。早くあっちから接触してきたら楽なんだけど。芽衣は必ず僕が守る。芽衣に群がる害虫駆除は僕の役目だ。さて、どう潰すか……

愛垣（あいがき）　芽衣（めい）

　あー楽しかった。護くんと一緒にいると幸せな気持ちになる。護くんと学校に行くと、こうやって一緒に登校してるのは私だけなんだーって少し嬉しくなる。大人になったら出来ないことだし今のうちに楽しんでおかないと。

あーなんで私の席、護くんの隣じゃないんだろう。授業中にこっそりおしゃべりとかしたいのに。神様からの試練？いや、そんなものないはず。私と護くんの将来はもう決まっているんだから試練なんて必要ないもの。じゃあ…………放置プレイ？二人をあえて一時的に離すことで愛情を深めさせようと神様がこの状況を用意しているのかな？そう考えるとあまり悪くない気がしてきた。

「おはよう…芽衣」

「ん、おはよう優璃（ゆうり）」

　この子の名前は青木（あおき）　優璃（ゆうり）。少し引っ込み思案なところがあるけどいい子だ。入学したての頃、席が前後だったから仲良くなった。ちなみにテストのときいつも上位者に入っている成績優秀な子。

「今日も夢次くんと一緒に来たの？」

「当たり前だよ。護くんの隣にいるのは絶対私だもん」

「ほんと夢次くんのこと好きだよねー。お似合いだと思うよ」

「ありがとう！まあ、私と護くんは運命の赤い糸で繋がれてるから」

「…………ああ、そうだったね」

優璃は唯一、私と護くんの運命を理解してくれている友人だ。あ、違うの誤解しないで。友達が一人って意味じゃない。私、実は護くんとの運命をあまり周りに言わないようにしている。以前友人だった人に「いつも同じ男子と一緒に学校来てるけど、付き合ってるの？www」って聞かれたから、私と護くんの将来設計について少し教えてあげたら「え、マジなの？あんな陰キャやめときなよ」とかなんとか聞くに堪えないこと言ってきて……それで揉めてしまった。そんなゴミとはちゃんとお話をして解決したんだけど、万が一護くんに迷惑がかかったら困るから。

　優璃にも護くんとの関係を聞かれたんだけど、理由が『芽衣と気が合う人なら私でも友達になれるかなって。なんか雰囲気私と似てる感じするし……』って言われたの。一瞬、私経由で護くんに近づこうとしてる身の程を弁えないバカだったのかなーって思ってお話をしてたら、『あ、うん、夢次くんと芽衣、お似合いだよ。付き合ってるんだろうなーってちょっと確信持ってたぐらい。たださっきはもし違ってたらなんか申し訳ないなって思って夢次くんの友達になりたいって言っただけで……あ、いや、夢次くんはとてもいい人だとは思うけど！本当は何か手伝って欲しいことだったり相談したいことがあったりしたときに協力したいなぁって。ほ、ほら、芽衣さ、夢次くんのことあまり話さないから秘密にして一人で抱え込んじゃってるんじゃ無いかって心配で……』だって。やっぱり運命の人と一緒にいると、分かる人には恋人みたいに見えるようだ。優璃にはもう関係バレちゃったし、ちゃんと世の中の道理を理解しているみたいだからお言葉に甘えて協力してもらっている。もっとも私と護くんとの間に問題なんて起きないから大丈夫なんだけど。

「なんか夢次くんと進展あった？」

「ううん、まだないよ。付き合うのは大学生になってからだもん」

「あー、将来とか色々決めてるんだっけ……辛くないの？」

「正直いうと少しね。でも護くんと私の一生に関わってくるし、このぐらいどうってことないよ」

「なんか相談あったら乗るからね」

「ありがと」

「じゃあ、そろそろ席戻るね」

「うん」

ん……っと護くんはいつも通り隅田くんとおしゃべりしてて……近付く女はいないね。よし。護くんにとって友人と関わることも大切だろうし、この僅かな時間は我慢して見守るだけにしないと。大人になったときにコミュ力がなくて私以外と話せなくなったら…………それはそれで悪い気はしないっていうかちょっとうれしいけど、やっぱり困るだろうし。将来の妻として護くんの未来のことも考えないとね♪