CSC

 《ジェネ・フランス決勝はシャルロット選手に

決定しました!!》


「勝利者インタビューですって? ええ……そうですわね。それはこの場で言うと対戦相手に嫌味と受け取られますわ。何事にもフェアが誠心ですの。わたくし。さあ、帰り支度をしますわよ」

傍らで試合を見守っていた男性がついと前に出てきた。

セバスと呼ばれたその男性が恭しくサーベルを受け取る。場内は熱気に包まれたままで黄色い歓声はなりやむ様子がない。その理由は後ほどわかった。

幾本もの配線が付いたヘルメットを勝利者が外す。

どう折畳まれていたのかと疑うほどのツインテールを左右に振る様が堂に入っている。


覗く顔はあどけなさを残した美少女だった。


(一)


「ユーのその高笑いは相変わらずね」

ウエスタンハットを目深に被る少女が呆れた視線をこちらへよこす。

まあまあ、ガン・トレット……とその少女の肩に手をやり間に入ってきたのは軍服姿の女性―ミヒェル。

トレットは去年まではハイスクールに通う学生だったが射的能力の高さが買われ、射的協会に身を置いている。後進の教育とアメリカの銃器社会の発展に大きく貢献しているせいか、本人いわく「笑いが止まらない」ほどガッポリ儲けているそう。


対して同じ銃器使いでも、ミヒェルは遠距離射的を好むスナイパー。かつてクイーンと呼ばれていた孤高の戦士だったけれど現在は以前所属していた組織をぬけ、飼い主に捨てられた犬を一時的に保護する仕事をしている。


「そういえば鈴麗は、一年前とは別人みたいに大人しくなっていたぞ」

「ワオ♪ 鈴麗?」

「ああ。この前、旅行でジェネチャイナに行った先、街中で声をかけてきてな。あたしは前の仕事柄一度覚えた顔は忘れない自信があるけど、あまりに穏やかな目をしていたから別人だと思ったよ」

「男ができると変わるんだね〜♪ミヒェルも犬に熱を上げてる場合じゃないねコリャ」

「いいんだよ。あたしにとってはチームであり、大事な家族なんだから。それもこれも鈴麗あいつのおかげだな」二人で大盛り上がりをしている。


 話に上がっているは、今ここにいる

ガン・トレットやミヒェルと同じく一年前まで開催されていた全世界女性格闘選手権―ミス・ジェネの覇権を巡るべく、わたくし達と拳を交えた好敵手ライバルで、その大会優勝者でもある。彼女はその後本国ジェネ・チャイナで暖かな家庭と素敵な殿方に囲まれて幸せに暮らしているとは聞いてはいたけれど……

「ちょっと!  ちょっと何ですの?  今日の主役はわたくしでしょ。誕生日パーティで路傍の石扱いは酷くってよ」

「ガッデーム!! 許嫁がいる身でよく言うよ」

「そういえば、そうだったな。では話題を変え……」

(ませんわよ!!)

「丁度よい機会ですから、その件もふくめて

私の幼き日から遡ってお話させてもらいますわ。

なんていったってお誕生日ですもの。オーホッホッホッ」


(ニ)

 

 父・母共に外資系づとめの家庭で育ったわたくしは資産の上では裕福な家庭とは正反対に寂しい生活を余儀なくされていましたの……。

一人娘のわたくしをセバスは父親のように目をかけてくれましたわ。

「お嬢様、フォアグラのソテーでございます」


《おいおい!! おかしいじゃねえか》

《うるさいですわよ。トレット、人が喋ってるのにいきなり話の腰を折るものではありません。寂しいと言ったのは心の問題でもありますわ。何を食べても寂びしいものは寂しい。

それでは、回想に戻らせてもらいます》


「……テーでございます。おや? お気に召しませんでしたか?まったく手をつけられないとは」

「セバス、わたしは、学校のみんなに何て思われてるか知ってる? 普通じゃない、だって。なによッこんなもの!!」

「いけません!! お嬢様」

離して!! 離してよ!! と暴れるわたくしを必死で抑えセバスは

「食べ物を粗末にしてはなりません。私は旦那さまからお嬢様の教育も任されてる身。それにお嬢様」

その言葉に続いたのは生まれや育ちに、普通も異常もないのだと。あるのは違いのみ。

けれども当時のわたくしには理解が及びませんでしたわ。だって?そうでしょう。

現に妬みや誹りを受けていたのですから。

だからこそ、私は普通を好みました。


セバスにフェンシングの手ほどきを受けた時の事です。

「我が国フランスの騎士道とはフェアプレイにその美学があります。お嬢様にはおわかりになりますかな?」

その世界は美しかった。ピストと呼ばれる直線上での一進一退の攻防。ある一定のルールに則りフェアを体感した瞬間でしたわ。

《お懐かしい話を……最初、ピストを無視して

側面から切込もうとされたのも、お懐かしい。

皆様、淹れたての紅茶をご用意致しました》

《セ、セバス!! そんな余計な話はしなくてよくってよ》

《これはこれは、私とした事が。失礼を》


 悪びれる風もなくホッホッホと下がるセバス。

二人の視線が何故か痛いですわ。


その後セバスの指導により、メキメキと腕を上げたわたくしに思わぬ話がでてきましたの。

一枚の写真。そこには素敵な男性が写りこんでいましたの。一目惚れとはこうゆうのを言うんでしょうね。あなた方には縁がないと思いますけれど。

《犬がいるからいいんだよ、うるさいな》


聞けば写真の殿方は父の親友にあたる息子だという。そして許嫁であると。

ただし、向こうの母親は厳格な人物で男に負けない

自立した強い女性がお好みであると。

わたくしは、この美貌と可憐な外見からは不適格の烙印を押されました。

こうとなって引き下がるわたくしではございません。是非、栄誉ある強い女性の象徴―ミス・ジェネ

を勝ち取り、この婚約を成功させなくては。

そう……それが、


「Oh No。それが鈴麗に敗けて破断になったと」

「トレット!! デリカシーなさすぎじゃありませんこと」

「ミーが悪かった。でも、ユーどうするの?ミス・ジェネは去年で終わっちゃったしなあ」

「実際どうなったんだ?」

「そ、それが……」


ドンドンッとドアを叩く音―

一羽の折り鶴?が手紙を加えて入ってきた。

「ワッツ? なにコレ」


《神楽様からの式神郵便です。シャルロット様にお手紙をお持ちしました》

「宛名は……え!?」

「どうした? ん……どれどれ……

(お便りありがとうございました。まさかシャルロットさんが僕の許嫁だったなんて。驚きしかありません。ジェネ・フランス決勝大会で貴女を初めて見た時から僕は貴女の事が気になっていました。

もし、よろしければお食事でもいかがでしょうか?家族同士でも構いませんので、よろしければ返信を)」


「シャルロットも隅に置けないな。相手にラブレターを渡していただなんて。それも両想いか」

「でも、これからどうしたらいいんですの?向こうのお義母様に気に入られないと……」

「……」

「……」


《ココも試練の時!シャルロット幸せめげないマン

!d(*´ω`🎀)》


「……何か今聴こえませんでした?」

「……確かに、聴き覚えある声したような」

「……気のせいじゃないか」


(でも……そう、わたしくは、わたくしらしく正々堂々と勝負いたしますわ。ミス・ジェネは終わりましたけれどわたくしの闘いはまだはじまったばかりなんですもの)



fin.






































 

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Charlotte Son Combat ―CSC  天球儀ナグルファル!d(*´ω`🎀) @ZERO0312

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