81.ヒューディアルのとある場所
「はあ、はあ……クリディアが……ッ! 何故こんな事になってしまったんだ……俺は、人類を……」
バラバラに砕かれたクリディアの街の瓦礫の裏で。『敵』から隠れながら、彼――かつては冒険者ギルドのマスターをしていたウィッツ・スカルドは呟く。そんな彼に、後ろから一人の女性が強い口調で言う。
「まだ分からないかウィッツ。アタシは確かに忠告したぞ。『嫌な予感しかしない』……とな。それを聞かず、独断専行でお前が勝手に物事を進めた末路がこれだ」
戦場と化したクリディアで、二人の言い合う声は周りの雑音に掻き消される。
「でも。人類が、もう一度攻めてくる魔人に対抗するには、これしか方法が――」
「まだ言うかウィッツ。いい加減に自分の過ちを認めたらどうなんだ?」
言い訳のような彼の声を遮って、もう一人の女性――冒険者ギルドのサブマスターである褐色肌の女性、レイン・クディアは言い放つ。
「……そうだね。こうなってしまったのは事実だ。俺は――責任を持って、全て終わらせなくてはならない。分かっていたんだ。認めたくなかっただけなんだ」
「別に、そういう意味で言った訳じゃないが」
ヤケクソ気味なのか、吹っ切れたのか。立ち上がり、瓦礫の影から出ようとする彼に言う。
「いいや、俺が独断で動いて起こした事。……これも、俺が独断で動いて、ケリを着けなきゃいけないことなんだ」
「……そうじゃないと言っているのだが……まあ良い。今回の事でウィッツ、お前には愛想が尽きたよ。変わってしまったな、お前も」
「はは、俺は変わってなんてないさ、今も昔も……俺は全てを終わらせて、戻ってくる――それだけさ」
できもしない、なんて事はお互い分かっていたはずなのに。
「そうか。じゃあアタシは生き残った皆の避難誘導を行う。……ドルニア領も壊滅状態だ。リディエへと向かうのが最善だろうな。お前も充分に時間を稼いだら、さっさと逃げろ」
レインはそう言い放つと、住民たちが待機している街の郊外へと向けて走り出す。共に、一粒の涙が、荒れ果てたクリディアに零れ落ちた。
ウィッツは、一人になった事を確認すると――ガクガクと震える手足に無理矢理力を入れて、瓦礫の影から飛び出す。
「……怖い。けど、俺がやらないと。俺がまいた種なんだ。後片付けも、俺がやらないと――」
そう言って、彼は――街を破壊し続ける、自分と同じサイズの、しかしその身には強大すぎる力を宿した、その相手の前へと立ちはだかる。
「なあ。勝手にこの世界へ呼び出して、勝手に戦力として使い潰そうとして、挙句の果てに元の世界には帰れない。……虫が良すぎる話じゃねぇか?」
「……その、それは……本当にすまなかったと思っている。だから――」
「教えてやる。オレ達はこの世界がどうなろうと、お前らがどうなろうと知った事じゃねぇ。一つ興味があるとすれば、『元の世界へと帰る方法』だけだ」
「分かった。帰る方法は絶対に探す。探してみせる。だから――」
その瞬間、彼の言葉は止まった。……突如、なんの前触れもなく現れた、彼の胸に突き刺さる一本の木材によって。
「――うるせぇよ」
瓦礫の山に向けて男はそう一言、吐き捨てる。そして、木材が突き刺さったまま倒れるウィッツの元へと歩くと、右手で軽く木材に触れる。その瞬間、木材は離れた地面へと
同時、ウィッツの身体に開いた穴から、ブシャアアアアァァァァッ!! と、赤い鮮血が噴水のように噴き出した。
「……汚ねえなぁ。命乞いなら、もっとマシな命乞いをしろ。……さて。アイツらと合流するか。色々と試したい事もあるからな」
もう動かない死体へと向けてそう言い残すと、男は街の中心部の方へとゆっくり歩いていく。
ここが、戦場となっている事にも気が付いていないかのような、ただの散歩をしているかのような。……そんな気軽さで。
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