79.マーデンディアのとある建物
「……あんまり頭に入ってこないなあ」
とある日の昼下がり。魔王城の隣に並んで立っている図書館には、ヒューディアルには無かったような高度な魔導書まで、数多く揃っている。
体調も良くなったので、最近は図書館に通うのが日課となっている。そこで魔導書を読み漁っているのだが……。
「やっぱり、人間に戻ったからなのかな……」
前ほど、スラスラと魔導書の内容が頭に入ってこない。解らない事も無いが、かなり苦労する。いままで楽していた分そう感じるだけで、普通は魔法を覚えるということがこれほど難しいものなのだと痛感させられた。
人間へと戻ってから、変わったことが多い。魔人である時間が長かったせいか。
まず、体がすごく重くなった。魔人へと改造された後遺症なのかと思ったが、それはステータスを確認すればすぐに解決した。
【梅屋 唯葉】
《レベル》201
《スキル》状態付与
《力》198
《守》163
《器用》253
《敏捷》196
《魔力》210
ステータスが、これまでのような魔人基準ではなく、人間基準に戻っていた。急に力も敏捷も落ちて、体が重くなったと感じるのも無理はない。……ただし、レベルは圧倒的に高いので、人間に戻ったとしてもある程度は戦える。
そして、そんなステータスの一つである、魔力の数値も大幅に落ち込んだ影響だろうか。
元々覚えていた魔法は、ちゃんと使えはするが……前のような威力は失われていた。
それでも、戦闘において十分な火力は出せるのだが……やはり以前の爆発的な高火力はもう出すことはできないし、あれだけ荷物を詰め込んでも感覚すらなかった魔法『ストレージ』も、私たちの荷物をひと通り詰め込んだら、ほんの少しではあるが魔力が持ってかれているという初めての感覚に襲われるほどになった。収納力も下がっているのだろう。
そして今、あれだけ覚えの早かった魔法が、なかなか頭に入ってこない。もう、以前のような戦力としての唯葉はいない。
だから、これからの戦いにもついて行けるようにこうして努力している訳だが……。
そんな私に、兄は――
『弱くなっても、魔法が覚えられなくなっても。唯葉は唯葉だから』
そう言ってくれたが……やっぱり私は、兄の助けになりたいと、そう思う。だから今まで以上に、魔法の勉強に励んでいるのだ。
……今までが異常な程だっただけで、今の唯葉もレベルは200を超え、魔法も上級魔法まで覚えてしまっている、とんでもない戦力である事には変わりないのだが、そんな本人は『これが普通』だと思っているので気が付かない。
「……まだまだ。もう少しで分かりそうなんだ。雷の上級魔法……魔人の力が無くても、私は出来るんだっ」
気を引き締め直して椅子に座り直すと、私は再びその分厚い魔導書との格闘を再開する。
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